「残業規制」で所得と消費はどれだけ減るか 消費増税並みのショック?!

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見通せる将来において人手不足が解消するメドが立っていないことを思えば、名目雇用者報酬の上昇圧力は構造的かつ持続的なものだろう。本来、残業規制を含む「働き方改革」にはこうした名目雇用者報酬の上昇を乗り越える生産性上昇効果を期待したいところだが、上で見たように、現段階では結果がどちらに転ぶのか確信が持てない。

そもそも残業時間という「量」の規制を目的化することは本末転倒でもある。因果関係で言えば、生産性上昇という「原因」があり、その必然的な「結果」として残業時間の短縮が期待できる。そこで初めて実質賃金という「質」の上昇と残業時間という「量」の減少が併存しうるのである。もちろん、同調圧力が非常に強い日本の職場環境を踏まえれば、たとえ本末転倒であっても「量」の削減に精神的な意味はあると思う。しかし、働く時間を強制的に削れば、自動的に生産性が上昇するという想定には無理があるだろう。

2016年以降、むしろ残業は増加中

近年、プレミアムフライデー(2017年2月開始)に象徴される政府の旗振りによる長時間労働の抑制は相応の耳目を集めているため、正式な規制導入を待たずに動き始めている企業(特に大企業)は多いと見受けられる。だが、少なくとも残業時間という尺度で測った場合、今のところ、その効果は顕著には表れていない。むしろ2016年半ば以降、所定外労働時間は増勢に転じており、これが規制導入でどう変わってくるかが注目される。

現状は(一応)歴史的な景気拡大局面に属するため、単に良好な経済環境の下で労働時間が伸びているだけという見方もできるだろう。もしくは残業代未払い(いわゆるサービス残業)が問題となる風潮を受けて、これまでノーカウントだった残業が算入されている可能性もある。「働き方改革」はまだ緒についたばかりであるため、所定外労働時間の増減だけを見て何かを断じるのは尚早である。

いずれにせよ、法律が今国会で成立すれば、残業規制は大企業で2019年4月から、中小企業ではその1年遅れで適用が始まる予定である。おそらくは政府も気にかけるように「働き方改革」で逆に賃金が減って景気が停滞するという皮肉な事態が発生しないのかどうか。引き続き改革の成果を計数面から丁寧にチェックしていきたい。

※本記事は個人的見解であり、所属組織とは無関係です

唐鎌 大輔 みずほ銀行 チーフマーケット・エコノミスト

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からかま・だいすけ / Daisuke Karakama

2004年慶応義塾大学経済学部卒。JETRO、日本経済研究センター、欧州委員会経済金融総局(ベルギー)を経て2008年よりみずほコーポレート銀行(現みずほ銀行)。著書に『弱い円の正体 仮面の黒字国・日本』(日経BP社、2024年7月)、『「強い円」はどこへ行ったのか』(日経BP社、2022年9月)、『アフター・メルケル 「最強」の次にあるもの』(日経BP社、2021年12月)、『ECB 欧州中央銀行: 組織、戦略から銀行監督まで』(東洋経済新報社、2017年11月)、『欧州リスク: 日本化・円化・日銀化』(東洋経済新報社、2014年7月)、など。TV出演:テレビ東京『モーニングサテライト』など。note「唐鎌Labo」にて今、最も重要と考えるテーマを情報発信中。

※東洋経済オンラインのコラムはあくまでも筆者の見解であり、所属組織とは無関係です。

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