「ゲティ家の身代金」は88歳の名優に救われた 開催!東洋経済オンライン読者限定試写会
そしてそんな困難を乗り越えた彼らはたった9日間でスペイシーが出演していたシーンをすべて再撮影。プラマーも「リドリー(・スコット)はビジョンがはっきりしており、頭の中ですでに編集しているので何度もテイクを重ねる必要がなかった。ヒッチコックのような古典的な監督だ」とその撮影を振り返る。
迷いなく、的確なリーダーシップで現場をまとめ上げたスコット監督。その演出ぶりを、主人公で誘拐されたジャン・ポール・ゲティ3世の母ゲイルを演じたミシェル・ウィリアムズは、「リドリーは演出の意図を無駄なく、端的に伝えることのできる監督。撮影もだらだらと続けない」と証言する。
そうやって映画を完成させたが、再撮影の影響を感じさせない、風格漂う1本に仕上がっている。そして2017年12月25日に初日を迎えた同作は、批評家筋から大絶賛。代役としてゲティを演じたプラマーは、アカデミー賞やゴールデングローブ賞の助演男優賞にノミネートされた。この崖っぷちからの逆転劇に、映画界から驚きと称賛の声が沸き起こった。
代役のプラマーはアカデミー助演男優賞にノミネート
だが、この映画の余波はそれだけにとどまらない。元CIAの人質交渉役・フレッチャー・チェイスを演じたマーク・ウォールバーグの再撮影時のギャラが150万ドル、そしてミシェル・ウィリアムズの再撮影時のギャラが1000ドルであったことが今年1月に大々的に報じられたのだ。マーク・ウォールバーグは2017年、米『フォーブス』誌の恒例企画「最も稼いだ俳優」に選ばれているが、報酬は主演のウィリアムズをはるかに上回る額。2人が同じエージェンシーに所属していたことも、この問題の根深さを感じさせた。
ハリウッドでは以前から、男女の報酬の格差が指摘されてきたが、その事実があらためて浮き彫りになった形だ。しかしその後、ウォールバーグは、再撮影時のギャラ150万ドルをセクハラ被害者を支援する「Time's Up」基金に寄付することを表明。その決断に、ミシェルも称賛の声を送った。
映画は社会を映し出す鏡とはよく言われる言葉だが、この映画をつくる過程もまた、ハリウッドがセクハラや男女格差について明確な「ノー」を突き付けた形となった。もちろんこんな裏話ができるのも、この映画自体がすこぶる面白いから、という前提条件があるからなのは言うまでもない。
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