「ゲティ家の身代金」は88歳の名優に救われた

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「ここで身代金を払ったら、他の孫にも危害が及ぶじゃないか」というのが彼の言い分だが、希代の守銭奴の言い分を鵜呑みにしていいのか。このゲティという男の複雑さが周囲を振り回し続け、やがて事態はとんでもない方向へと転がっていく――というのが本作の物語だ。全編を通してスコット監督の語り口は冴え渡り、133分という上映時間を感じさせないほどに観客をハラハラさせてくれる。

ゲティの孫が誘拐され、身代金1700万ドルを要求される ©2017 ALL THE MONEY US, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

もともとこのゲティ役は、『アメリカン・ビューティ』『セブン』などで知られるケヴィン・スペイシーが選ばれており、賞レースにも有利な12月公開を目指して映画も完成させていた。しかし昨年の10月、スペイシーが過去に行った当時14歳の少年に対するセクハラ疑惑が浮上。さらに別の被害者が続々と名乗りをあげたことで世間は騒然となり、スペイシーにも厳しい対応で臨む必要が出てきた。

スパイシーは主演ドラマ「ハウス・オブ・カード 野望の階段」をクビになったほか、エージェントからも契約を打ち切られるなど、ハリウッドからは事実上の追放状態になる。その余波は、当然この作品にも及ぶことになる。

監督、プロデューサー陣の考えは、「たとえ公開直前であろうがスペイシーの出演シーンは使用しない」というもので、そこに迷いはなかったという――。USAトゥデイ紙によると、制作会社が全額負担した追加撮影費は約1000万ドルに達するというが、再撮影は即座に決断された。

公開1カ月半前、撮り直しを決断

公開まで1カ月半という段階で、すでに完成しているこの規模のハリウッド映画を撮り直すというのは異例の事態で、それだけセクハラ問題に対する危機意識が深刻なものだったといえる。

とはいえ、ロケ地の確保、共演者たちのスケジュール調整など、クリアしなければならないハードルは多々あった。そこで代役として白羽の矢が立ったのは『サウンド・オブ・ミュージック』のトラップ大佐役などで知られる名優クリストファー・プラマーだった。ブロードウェーの舞台「シラノ」でトニー賞ミュージカル主演男優賞を獲得したのをはじめ、2011年の映画『人生はビギナーズ』でアカデミー賞助演男優賞を獲得するなど、その実力はトップクラス。もともとスペイシーは特殊メークで老人に変身していたが、現在88歳のプラマーには老けメークが必要ない、ということも大きかったと思われる。

次ページわずか9日間で再撮影
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