補助金目的「障害者ビジネス」が横行する理由 制度設計の不備が招いた「官製不祥事」の実態

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その状態を改善する切り札と期待されたのが最低賃金を保証するA型事業所であり、A型の数を増やすことが障害者の所得を増やすことにつながると厚労省は考え、営利法人の参入など大幅な規制緩和を行ったのである。その効果はてきめんで、わずか6年でA型事業所は5倍近くになり、そのうち営利法人は10倍を超す増え方を示した。

補助金目当ての官製「A型バブル」

しかし、冷静に考えてみるとこれは明らかに不自然な現象であることがわかる。なぜなら、その間に日本のGDPはわずか1.06倍になったにすぎないからだ。もちろん、特定の産業が短期間で爆発的に成長することもあるが、それは何らかの技術革新によって潜在需要が顕在化したケースに限られる。

障害者の働くA型事業所が行っている業務においてこうしたブレークスルーが起きたとは到底考えられないし、実際、この間、A型のほとんどが該当する中小企業の数は日本全体で9%も減少しているのである。

本来、障害者雇用の推進は”障害の社会モデル”とセットで考える必要がある。つまり、障害を作り出しているのは私たちの社会であるとの発想に立ち、働き方を人間に合わせるという意味での真の”働き方改革”が浸透することによってはじめて障害者は潜在的な能力を労働市場で発揮することができるのである。

こうした新しい考え方は、車いす用のエレベーターを設置するのとは異なり、現場で浸透するのに時間がかかる。いきおい、障害者の仕事量もゆっくりとしたペースでしか拡大しないのである。にもかかわらず短期間でこれだけA型が増えたということは”補助金目当て”の参入とみられても仕方ないだろう。まさに官製の”A型バブル”と呼ぶにふさわしい現象といえる。

今回の「不祥事」に対する行政の責任はきわめて重い。厚労省は「不祥事」を起こした事業者を「悪しきA型」などと称し、制度を悪用した側にすべての責任を押し付け、報酬規定の細分化/厳格化など規制強化に動き出している。何をか言わんやだ。行政の任務は、民間事業者をルールで縛ることではない。事業者のやる気を引き出し、その努力が社会全体の利益に結び付くような制度を作ることなのである。

中島 隆信 慶應義塾大学商学部教授

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なかじま たかのぶ

1960年生まれ。慶應義塾大学大学院経済学研究科後期博士課程単位取得退学。博士(商学)。専門は応用経済学。著書に、『新版 障害者の経済学』『高校野球の経済学』『お寺の経済学』『大相撲の経済学』(以上、東洋経済新報社)、『経済学ではこう考える』(慶應義塾大学出版会)など。

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