補助金目的「障害者ビジネス」が横行する理由 制度設計の不備が招いた「官製不祥事」の実態

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それでも事業が続けられたのは、障害者1人当たり1日5840円支給される自立支援給付費を障害者給与に充当させていたことに加え、障害者を新規に雇用することにより3年間で1人当たり最高240万円の助成金(特定求職者雇用開発助成金:特開金)を受け取ることができたからである。

昨年4月、厚労省が全国のA型に通達を出して給付費の給与充当を禁止したことから、経営が続けられなくなったとされている。ここでは、「不祥事」の背景として3つの要因を取り上げる。

第1の要因は、A型の会計制度である。行政から事業所に支払われる自立支援給付費という名の補助金は、そこでの作業内容や利用者の生産性とは無関係に何人の障害者が何日間通ったかによって決まっている。

たとえば、施設を利用する障害者の数が20人以下で、障害者7.5人当たり1人の職員が配置されている事業所では、障害者が1日施設を利用すると5840円の給付費が支給される。その事業所で障害者が1日5時間滞在するものとし、時給が900円だとすると、1日当たりの給与は4500円となる。

20人の障害者が年間200日施設に通ったとして、それを3年間続けると、給付費と特開金を合わせて1億1808万円の収入となり、障害者に支払う給与は5400万円なので、仮に事業収入がゼロだったとしても6408万円の利益が出る。

法人がこうした事業所を5カ所持っていれば合計で3億2040円の”儲け”が出る仕組みだ。特開金は3年分しか出ないので、3年経ったところで事業所を閉鎖し、新しい事業所で障害者を雇い直せば同じ”ビジネスモデル”を続けられる。

障害者給与が補助金を上回るサムハルに学べ

こうしたモラル・ハザードを防ぐには、何もしなくても利益が出るような現行の制度を変える必要がある。A型の損益計算書上の収益は、行政からの助成金(補助金+給付金)、事業によって得る収入、そして障害者本人の自己負担金の3つから成り立っている。他方、費用は、事業を行うための経費、職員給与、そして障害者給与(利用者工賃)である。そしてこの両者の差額が当期利益とされる。

ここでよく考えてほしい。そもそも社会から与えられたA型のミッションとは、政府の補助金や障害者の負担金を受け取り、障害者の生活を支えるための給与を支払うことではないだろうか。そうだとすると、損益計算書上の収益はミッション遂行のためのインプットであり、費用はアウトプットに相当するはずだ。つまり、施設会計と社会会計は収支が逆転しているのである。

全国のA型事業所が作る組織である「全Aネット」の調べによると、障害者給与が補助金を上回っている”健全な”A型はわずか7%にすぎないとのことである。私が講演等で社会会計上の黒字をA型の経営目標にすべきだと話すと、ほとんどの施設長は「そんなことは無理に決まっている」と返答する。

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