シリアで化学兵器が「容認」されつつある実態 なぜこんなに泥沼化してしまったのか

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国連安全保障理事会・北朝鮮制裁委員会の専門家パネルは2月、北朝鮮のミサイルや化学兵器に関連するとみられる技術者グループがシリアを訪問したり、化学兵器開発に転用可能な部材を輸出したりしていたことが判明したとの報告書をまとめている。

それによると、2012年から2017年にかけ、軍事開発に関係するシリア政府関連企業への北朝鮮からの40 件以上の未報告の輸出が確認された。具体的には、北朝鮮からシリアに輸出が阻止されたコンテナ13 個の中には、化学兵器開発に転用可能な耐酸性タイルやステンレスパイプ、バルブなどが積載されていた。

米軍のミサイル駆逐艦が地中海に展開中

このような疑惑が浮上したのを受け、米国のヘイリー国連大使は「化学兵器や非人道的な辛苦によって自らの意思を押し通そうとする国家、特に非合法なシリアの政権に対し、必要があれば行動する用意があると警告する」と、3月時点でシリアを名指しで非難していた。トランプ大統領も今回の化学兵器使用疑惑後の8日、「代償は高くつく」と警告している。

アサド政権にトランプ大統領はどう対応するのか。米紙ニューヨーク・タイムズは10日、トランプ米政権が昨年4月の武力行使より大規模な軍事攻撃を検討していると報じた。さらなる化学兵器の使用を抑止するために大規模なシリア空爆に踏み切る可能性があるという。米軍のミサイル駆逐艦「ドナルド・クック」が地中海に展開中で、大規模なミサイル攻撃を実施する態勢が整いつつある。

米国が再び対シリア攻撃に踏み切るかどうかは、米政権内の人事も影響しそうだ。大統領補佐官(国家安全保障担当)に、対外強硬派とされるボルトン元国連大使が9日に就任しており、軍事的な選択肢をトランプ大統領に進言した可能性がある。

さらに、史上初の米朝首脳会談を控え、対シリアで強硬な対応を取るなら、北朝鮮に対しても安易な妥協は行わないとのメッセージを送ることになる。もっとも、対シリア攻撃が実施されても、アサド政権の存続というシリア内戦の構図が変わる可能性は小さいだろう。

池滝 和秀 ジャーナリスト、中東料理研究家

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いけたき かずひで / Kazuhide Iketaki

時事通信社入社。外信部、エルサレム特派員として第2次インティファーダ(パレスチナ民衆蜂起)やイラク戦争を取材、カイロ特派員として民衆蜂起「アラブの春」で混乱する中東各国を回ったほか、シリア内戦の現場にも入った。外信部デスクを経て退社後、エジプトにアラビア語留学。ロンドン大学東洋アフリカ研究学院修士課程(中東政治専攻)修了。中東や欧州、アフリカなどに出張、旅行した際に各地で食べ歩く。現在は外国通信社日本語サイトの編集に従事している。

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