一本負け?! 国際連盟の暴走に振り回されるニッポン柔道界
10月5日に東京で開催された、世界柔道団体選手権大会。日本代表は女子が初優勝する一方、男子は8カ国中5位に終わった。男子で優勝したのはグルジアで、2位がウズベキスタン、3位がロシア、ブラジル。柔道の国際化ぶりを象徴するかのような結果だった。その試合会場の関係者席に、ひときわ存在感を示す白人男性の姿があった。
昨年から国際柔道連盟(IJF)会長を務めるマリアス・ビゼール氏だ。ルーマニア生まれで現在はオーストリア国籍のビゼール氏は、東欧でカジノ経営など幅広く事業を展開しているが、来歴は謎めいている。スポーツ界の指導者としては相当に異色なこの人物が、近く柔道の将来を一手に握ることになる。
IJFは10月21日にバンコクで臨時総会を開催、この場で規約が改定され、会長が理事の過半数を指名する体制が出来上がる予定だ。これが実現すれば、ビゼール会長はIJFの運営に関して、事実上の独裁権を手に入れる。柔道の創始国で、放映権などの「市場」としても最大である日本はこれになすすべもない。
2002年から欧州柔道連盟会長を務めてきたビゼール氏は、05年のIJF会長選に韓国出身の朴容晟(パクヨンスン)前会長の対抗馬として立候補。結果は朴氏の3選だったが、2年後の07年9月には多数派工作に成功したビゼール氏が朴氏に不信任案を突きつけ、辞任に追い込んだ。
全日本柔道連盟(全柔連)は朴氏陣営についたことから、教育・コーチング理事選挙で現職の山下泰裕・東海大教授が落選。日本は初めてIJFの理事ポストを失った。しかし日本出身者を完全に外すことは得策でないと考えたのか、ビゼール会長は全柔連の上村春樹専務理事を議決権のない「指名理事」に登用した。
このときビゼール会長は朴氏の残存任期2年も含め、13年までの任期を確保。これまでは隔年だった世界選手権を09年から毎年開催することを表明するなど、矢継ぎ早に改革案を打ち出した。
そのコンセプトは、柔道を「見て面白い」スポーツにし、ファン層を拡大することだ。競技面では消極的な選手への「指導」を厳格化する一方で、来年からは「効果」ポイントを廃止する。これには「一本」を狙うダイナミックな技の応酬を促す目的がある。「より多くの人に見てもらうには、一本を目指す柔道でないとダメだというのがビゼール氏の意見。一本へのこだわりはわれわれと一致している」(全柔連の上村専務理事)。商業化志向のIJFと、本来の柔道を追究する全柔連の思惑が、現時点では一致しているわけだ。
国際大会も大再編される。東京、パリ、モスクワ、リオデジャネイロの4都市でグランドスラム(GS)大会を、さらにロッテルダムなど5都市でグランプリを毎年実施し、世界ランキングを作成する。そのうえで、ランキング上位者が世界選手権を争う。
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