安倍政権、「日銀と政府」の危なすぎる関係 インフレが実現したら、政策転換できるのか

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これに対し米国でFOMC(連邦公開市場委員会)に参加するのは、FRB(連邦準備制度理事会)の理事7人と連邦準備銀行総裁5人。FRB理事は政府が任命するものの、連銀総裁は各連銀の取締役会が任命する。連銀総裁はニューヨークなど地区ごとに12人いるが、その中から5人が輪番制でFOMCの議決権を持つ。このような仕組みで多様な議論が可能になる。「合衆国という国の成り立ちもあり、過度に中央政府の意向が反映されないような制度になっている」(東短リサーチの加藤氏)わけだ。

任期も日本のほうが短い。日銀の政策委員の任期は5年だが、FRB理事の任期は14年もある。大統領よりも長く務める理事が大半のため、時の政権に金融政策を左右されることが少ない。

加えて日銀の場合は総裁・副総裁がほぼ同時期に交代する。したがって任命時期の政権は9票のうち3票で意向に沿った人物を起用可能だ。内部の執行も担う3名を同時に変更することで、2013年のように政策の枠組み自体を大きく変えることもできてしまう。

特に安倍政権は日銀に対し、人事権を通じて積極的な緩和の継続を働きかけている。加藤氏は「黒田総裁の前任である白川氏や、その前任の福井俊彦氏が総裁だったときは、今ほど露骨に政権の意向を反映するような金融政策はとられなかった。現政権になって政府と日銀の適度な距離感が壊れた」と指摘する。

もとより政府の経済政策の一環である金融政策の決定は、政府から完全に離れることはありえない。人事権が選挙で選ばれた政府、国会に委ねられているのも妥当といえるだろう。しかし、その運用に関して、安倍政権は日銀の独立性に対するリスペクトを欠いているのではないだろうか。

現在はデフレ脱却に向け、政府日銀共に同じ方向を向いている。低金利環境ではお互いの利害も一致している。その状況下では、独立性の問題は顕在化しにくい。しかし、日銀が利上げや量的・質的緩和政策の縮小に向かう場面では問題が顕在化してくるだろう。

出口に向かえば、政府との対立は必至

日銀は市場の4割程度という大量の国債を購入している。日銀が出口に向かうのはインフレ目標がある程度達成されたときであり、長期金利が上がる環境になったときである。そこで行う出口政策は長期金利をさらに上昇させることになる。となれば、国債の利払い費が急増するのを避けたい政府との対立は必至だ。しかしそのとき、出口政策の実行が遅れればインフレはさらに進む。

また、大規模緩和の副作用はすでに積み上がっている。黒田総裁自身が、金利を下げすぎることで金融機関の資本余力がそがれて融資に支障を来すという「リバーサルレート」論に言及して、追加緩和論を牽制している。国債の流動性が下がって、効率的な資金配分を行うという金利の市場機能も阻害されている。この政策を長引かせることはできない。

黒田総裁の2期目の間には確実に出口政策の議論が求められることになる。出口に向かう際に、日銀がどれだけ自らの意思で政策を運営できるか。政府との意思疎通を含め、黒田総裁の手腕が問われることになるのは間違いない。

藤原 宏成 東洋経済 記者

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ふじわら ひろなる / Hironaru Fujiwara

1994年生まれ、静岡県浜松市出身。2017年、早稲田大学商学部卒、東洋経済新報社入社。学生時代は、ゼミで金融、サークルで広告を研究。銀行など金融業界を担当。

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