安倍政権、「日銀と政府」の危なすぎる関係 インフレが実現したら、政策転換できるのか

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2013年1月、安倍政権の下で日銀(この時点では白川方明総裁)は政府と共同声明を出し、政府のデフレ脱却をサポートする形になった。2013年2月、安倍晋三首相は白川総裁の後任について「私と同じ考えを有する人、かつデフレ脱却に強い意志と能力を持った方にお願いしたい」と語り、4月に黒田総裁が就任。これ以降、現在の日銀には、人事を通して政府の思惑が色濃く反映されることになった。日銀法が目指す中立で専門的で多様な議論が行われているかは疑問だ。

黒田総裁の1期目に異次元緩和やマイナス金利に対し副作用の懸念を示し、反対票を投じていた4名は任期満了とともに退任していった。その都度、後任には緩和に肯定的な人物が選ばれている。さらにメンバーの中には緩和に非常に積極的な人物が多く起用されている。

黒田総裁が現状のイールドカーブ・コントロールの維持を基本路線にする中、2017年6月に就任した片岡委員は「10年以上の幅広い国債金利を一段と引き下げるよう、長期国債の買い入れを行うことが適当である」と緩和拡大を主張し、現状維持の提案に対し反対票を投じ続けている。若田部副総裁も就任会見で「必要ならば躊躇なく追加緩和をすべきだ」とさらなる緩和に肯定的な姿勢を見せている。

多数決で押し切り、多様な意見は反映されず

2001~2011年、速水・福井・白川の3代の総裁の下で日銀審議委員を務めたキヤノングローバル戦略研究所の須田美矢子特別顧問は「現在の政策委員のメンバーはリフレ派に偏っていて、積極緩和政策の副作用について議論があまりなされていない」と批判する。審議委員の意見が特定の立場に偏れば、多数決での決議が行われる中、少数意見は軽視されやすくなる。実際に黒田総裁1期目の政策決定会合は、重要な政策の転換点においても、賛成5票・反対4票という僅差で決まることが複数回あった。

「私が審議委員のときには大幅な政策変更を伴うときは、できるかぎり多くの賛成が得られるように議論が重ねられた」(須田氏)という。大幅な政策変更がないときでも、「つねに最適な金融政策を議論し、緩和、維持、縮小すべての選択肢が議論の対象だった」(須田氏)。

ところが、黒田総裁は反対意見があっても多数決で押し切っているように見える。審議委員の偏りが多様な意見による効率的な政策決定を妨げている可能性がある。そもそも日銀の政策委員9人はすべて政府の任命で就任するため、日銀はほかの中央銀行に比べ、政府の影響を受けやすい構造になっている。

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