北朝鮮が「全方位外交」に舵を切った真の理由

米国の先制攻撃リスクに屈したわけではない

1つ目の理由としては、核ミサイル開発を巡る国際社会の経済制裁がじわじわと効果を上げてきていることがある。中国税関総署がまとめた最新のデータによると、2月の中国への輸出額は2009年以来の低水準に陥った。中国が北朝鮮の外貨獲得源となっている石炭や水産物などの輸出品などをことごとく禁輸にしたせいだ。中国は北朝鮮の貿易額の9割強を占める最大の貿易国だ。

2つ目の理由として、小此木氏の指摘通り、北朝鮮が米国相手にすでに十分な抑止力を確保し、自信を持ったことが背景にあるとみられる。北朝鮮は昨年11月29日、新型の大陸間弾道ミサイル(ICBM)である「火星15」の発射成功を受け、「米国本土全域を攻撃できる」と主張、「核武力完成」を宣言した。

このほか、日本のメディアでは、北朝鮮が米国による軍事攻撃の可能性に恐れをなして米国との交渉テーブルについたとの見方がある。しかし、筆者はこの見方にくみしない。

米国が北朝鮮を攻撃できるのなら、とうの昔にやっていたはずだ。北朝鮮を攻撃し、反撃を受けた場合の韓国や日本の被害リスクが甚大であると見込まれてきたことから、米国はこれまでも手を出せないまま、現在の混沌とした北朝鮮情勢に陥っている。

先制攻撃は困難

実際に米国は1994年の朝鮮半島第1次核危機や2003年の第2次核危機の際にも、北朝鮮への先制攻撃を検討したが、実行に移せなかった。当時、核兵器を開発中でまだ核保有国ではなかった北を、なぜ米国は攻撃できなかったのか。北朝鮮が軍事境界線からわずか40キロにあるソウルを狙って長射程砲とロケット砲を発射しただけでも、甚大な被害リスクが見込まれていたからだ。

1994年時や2003年時と比べ、今の北朝鮮の攻撃能力は核ミサイル能力を含め、格段に高まっており、日韓の被害はもっと大きくなる可能性が高い。また、北は自存自衛のための最後の手段として、核兵器のほか、炭疽(たんそ)菌や天然痘、ペストといった生物兵器、サリンなどの化学兵器のほか、既に北が示唆した電磁パルス(EMP)攻撃を行う可能性もある。北朝鮮の反撃による日韓の被害リスクを考えれば、米国の先制攻撃は到底考えられない。

文在寅(ムン・ジェイン)韓国大統領の統一外交安保特別補佐官を務める文正仁(ムン・ジョンイン)延世大名誉特任教授も前述の国際シンポジウムで、北朝鮮はこれまで常に米国からの攻撃を想定して備えてきた国であるため、トランプ大統領の強硬姿勢に恐れをなして対話に出てきたとの見方をきっぱりと否定した。

一方、小此木氏は、北朝鮮が平昌オリンピックを利用し、韓国との関係を改善したうえで米国との交渉に臨むという『先南後米』の路線を数年前から計画を立ててきたと指摘。そのうえで、北朝鮮が対話に出てきた理由としては、「計画的なものが半分、制裁の影響が半分」との見方を示した。

小此木氏は、経済制裁で北朝鮮を取り巻く将来の見通しが厳しくなっているのは事実と述べたものの、昨年9月以降の国連決議に基づく制裁の多くは、今年に入ってから実施されていると指摘。そのうえで「北朝鮮が直ちに制裁の効果のために膝を屈して、アメリカとの交渉に臨んでいるかといえばそうではない」と述べた。

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