健康を食い物にするサイトに下された審判 「私たちの声はグーグルに届く」

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「WELQ問題を契機に、ネット上にはこのようなサイトへの問題意識が生まれ、自浄作用が働きつつあります。しかし、検索エンジンというのは、どれだけ改善されても完ぺきになることは絶対にありえません。引き続き、みなさんの継続的な監視と警告が必要です」

情報のリレーが、自浄作用につながった

WELQ問題を振り返ってみると、辻氏や私のような個人が発した声を、私が勤務するBuzzFeed Japanのようなネットの報道機関が拾い、話題となったことで新聞やテレビなどの既存メディアでも取り上げられ、政治家や都が動いてWELQ閉鎖に至った、という一連の流れが見えてきます。

WELQ後はどうでしょうか。グーグルの対応は迅速とは言えませんでしたが、私がBuzzFeed Japanで継続的に報道して、ネットで話題になっていたことは、少なからずグーグルに届いていたことがうかがえます。

辻氏の指摘する「監視と警告」を実現できるのは、やはり、ネットならではだと言えそうです。というのも、個人がマスメディアや政治家、都、大企業に意見を言うことは、現実世界ではなかなか難しいことです。しかし、「フラットである」ことが最大の特徴であるネット空間では、たとえアメリカ大統領に対してであっても、ツイッターなどで直接、呼びかけることができるのです。

つまり、ネットは現実世界よりも、自浄作用が働きやすいと言うことができます。

WELQ問題が新聞やテレビなどの既存のメディアで報じられるときに、私には気がかりなことがありました。それは、この問題をネットの弊害として、あまつさえ「自分たちにはこんなことは起こりえない」とでも言いたげに、既存メディアがこの問題を扱っていたことです。

たとえば、2016年12月2日付の日経新聞デジタル版の記事「DeNA、9情報サイト休止 検索上位狙い編集歪む」には、このような記載があります。

「情報が氾濫する現在、まとめサイトの人気は高い。しかし、情報を提供するには、多大な労力と細心の注意を払って内容を精査する作業が欠かせない。DeNAの不祥事は、ネットメディア全体の信頼性を揺るがすことにもなりかねない」

『健康を食い物にするメディアたち ネット時代の医療情報との付き合い方』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)。書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします

たしかに、検索エンジンのジレンマはネット特有の問題です。しかし、詳細は割愛しますが、問題を最初に指摘したのは既存メディアに属さない個人としての私(当時)であり、マニュアルの存在のスクープは、ネットメディアであるBuzzFeed Japanであり、ネットの中の人たちでした。これはまさに、ネットメディアによる自浄作用ではありませんか。

そもそも、ネットメディアというのは不思議な言葉だな、と私は思います。新聞やテレビも今、ヤフーニュースに記事や番組を配信しています。Twitterを積極的に活用しています。そうであるなら、新聞やテレビもネットメディアです。

ネットはすでに生活の大きな一部であり、切り離すことはできません。前述の日経新聞デジタル版の記事について言えば、ネットに記事を掲載していながら、ネットメディアの信頼性を問うというのは、なんだか立ち位置がよくわかりません。メディア全体が信用されなくなりつつある中で、ネットとそれ以外を区別しようとすることは、私には現実逃避のように思えてしまうのです。

朽木 誠一郎 医療記者

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くちき せいいちろう / Seiichiro Kuchiki

1986年生まれ。朝日新聞デジタル機動報道部記者・withnews副編集長。2014年群馬大学医学部医学科を卒業。同年オウンドメディア運営企業に入社、有限会社ノオトを経て2017年にBuzzFeed Japan株式会社へ入社し医療記者としての活動を開始。2019年に朝日新聞社入社。2020年より朝日新聞withnewsの副編集長(新領域担当)、編集局次世代チームサブリーダーに就任。2022年より現職。著書に『健康を食い物にするメディアたち』(ディスカヴァー携書)、『医療記者のダイエット』『健康診断で「運動してますか?」と言われたら最初に読む本』(ともにKADOKAWA)などがある

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