ビジネス書のスターが説く、営業の新セオリー ベストセラー作家ダニエル・ピンク氏インタビュー
――あなたは「過去10年でセールスのセオリーが変わった」と主張している。海千山千のセールスマンが言葉巧みに売り込む伝統的なセールスモデルが崩壊したことに、あなたはいつ頃、気づいて、売り方を変えなければいけないと思ったのか?
ある瞬間に、突然ひらめいたのではない。自分自身が買い物をするときの言動を見たり、作家としてアイデアを売ったり、読者がコメントを返してくる世界で本を売ったりする中で、少しずつそう考えるようになった。
20年や25年前であれば、本を読んだ人が中身を気に入らなかったときに、そのことを世間に発信するなんてありえなかった。そこで、自分自身の生活をじっくり振り返り、リサーチをしながら探求していった。
すると、このたぐいの変化が至る所で起こっていることに気づいたんだ。車のセールスでも、自分自身を売り込むときでも、企業の採用活動でも、あらゆる側面で起こっている。
デートだって例外ではない。人々は多くの情報を利用でき、しかも、それがより簡単になっているのだ。私が妻に出会ったのは、これほど情報の透明性が広がる前だったからよかったよ(笑)。
セールスの新ABCで必須なのは、傾聴のスキル
――そうした変化に気づいたことで、あなた自身はどう変わったか?
本の中で、セールスの新しいABCとして「同調(Attunement)」「浮揚力(Buoyancy)」「明確性(Clarity)」というキーワードを挙げた。リサーチを始めたとき、私は「同調」について努力する必要があることがわかった。特に、人の話を聞くのがあまり得意ではなかったから。
私はよく取材に行くが、録音したテープを後から聞き直してみると、相手の話を遮って、最後まで答えさせていなかったりする。きちんと話を聞かないから、的確なフォローアップの質問もできていない。
それで考えてみたところ、聞き方は学んだことがないことに気づいた。学校では、読み方や書き方は教えても、聞き方は誰も教えてくれない。私たちには耳がある以上、聞くことはできるが、だからといって、ちゃんと聞いているという意味ではない。
そこで、少しスローダウンして、意図的に聞くことを心掛けるようになった。「ほかの人は何を考えているか」「ほかの人は何に興味があるか」と考えるようにしたのだ。それが自分にとってのひとつの大きな変化だ。