軽自動車が新車の4割近く売れてしまう理由 これは必然の成り行きだが税金面は懸念だ

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特に許しがたいのが、初度登録(軽自動車は届け出)されて13年を超えた車両の増税だ。軽自動車では、13年未満の軽自動車税は前述の年額7200円あるいは1万0800円だが、13年を超えると1万2900円に増税される。古い軽自動車に乗っていると、軽自動車税が120%~180%に跳ね上がるのだ。

さらに軽自動車の重量税も、継続車検時に納める2年分で見ると、13年未満ならエコカー減税車が5000円、それ以外は6600円なのに、13年を超えると8200円、18年を超えると8800円まで高まる。

軽自動車の増税が進むと…

軽自動車増税の犠牲になるのは、主に年金で生活する高齢者だ。軽自動車は公共の交通機関を利用しにくい地域を中心に普及しており、佐賀県/鳥取県/長野県/山形県などでは、10世帯当たりの軽自動車保有台数が10台を上まわる。これらの地域では、人口に占める65歳以上の比率が30%を超えることも多く、高齢者が車齢13年を超えた古い軽自動車を使って、通院や買い物をしている現実がある。

こういった人達から、多額の税金を徴収するのが今の自動車税制だ。古い車両の増税は、環境性能の優れた新型車に乗り替えさせることを目的にしているが、それができないから古いクルマに乗っているのだ。古いクルマを使うユーザーのことが、まったく理解できていない。

また古いクルマの増税と乗り換えの奨励は「モノを大切に使う」考え方にも反する。どう考えても誤った税体系で、とりわけ軽自動車については、高齢者福祉に反する。

ちなみに東京都は、軽自動車の普及率が全国で最も低く、10世帯当たり1台を辛うじて上まわる程度だ。65歳以上の高齢者比率も23%と低い。軽自動車の制度は、普及率の高い地域において、現場目線で考えねばならない。東京に籠っているとズレる。

以上のように、軽自動車が本当の価値を発揮するのは、価格の安い中古車として販売され、日常生活を支える移動手段になったときだ。このときに優れた安全装備が装着されていれば、高齢者の事故防止にも役立つ。N-BOXが搭載する「ホンダセンシング」、タントの「スマートアシスト3」などの安全装備は、将来の安全性を飛躍的に高める効果がある。

ところが13年を超えた車両を含めて軽自動車の増税が進むと、高齢者の所有が困難になり、ライフラインを切断してしまう。高齢者の生活権を奪う結果を招く。軽自動車には魅力的な車種が多く売れ行きも好調だが、自動車業界としてはさまざまな問題を抱え、特に税制面はデリケートに扱う必要がある。軽自動車は福祉車両の一種だと考えてもいいぐらいだ。

渡辺 陽一郎 カーライフ・ジャーナリスト

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わたなべ よういちろう / Yoichiro Watanabe

1961年生まれ。自動車月刊誌の編集長を約10年務めた後、フリーランスのカーライフ・ジャーナリストに転向。「読者の皆さまにケガを負わせない、損をさせないこと」が最も重要なテーマと考え、クルマを使う人たちの視点から、問題提起のある執筆を心掛けている。

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