訪日客が本当に望んでいる「おもてなし」の姿 実は「不安要素」ばかりのインバウンドの現場

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彼らにとっての、他の観光客と差別化できる自慢は、百貨店、ドラッグストア、各種専門店等の「メンバーズカード」の登録である。ポイントをためて何か優遇を受けるというより、「常連客」「日本に詳しい」という(自分・他人への)自慢・印象付けが目的であるそうだ。

初対面の際、メンバーズカード、アプリを見せてくれて、「どうですか、劉さん。こんなにメンバーズカードを持つ外国人観光客はあまりいないでしょう? 私たちは生活者っぽい観光客でしょう。」と自慢げに語った。しかし、このメンバーズカードが後ほど大きなダメージを与えたのだ。

メンバーズカード提示と免税手続き

銀座の有名文房具店で3時間かけて文房具の買い物三昧をした後、お互いの両親にお土産を買うため、近くのファッション専門店に入った。ここには、この夫婦は何度も訪れているので、時間を無駄遣いせず、さっと4人分の服を買い、免税レジに並んだ。

店員がメンバーズカードの有無を確認せず、無言のまま会計を始めた。その途中で、妻が「あ、メンバーズアプリのスキャンを忘れた」と気付き、慌てて店員に見せた。店員の若い男性が、(何で観光客がメンバーズアプリスキャンを求めているの!?)といった驚いた顔をし、しばらくしてから「免税とメンバーズカードの利用は一緒にできない」と日本語で答えた。

妻は、なんとなく意味をわかり、私に「だめだと言われた」ことを確認し、「おかしいな、今までできていたのに……」と疑問を呈した。そこで、たまたま通りかかった別の店員に確認したところ、「メンバーズカードを利用したいのであれば、免税手続きをいったんキャンセルし、最初からやり直すことになります」と返答した。

つまり、この店では、「メンバーズカード提示→会計→免税手続き」という仕組みであり、メンバーズカードと免税手続きの同時利用不可ということではなかったのだ。その夫婦は、店員のあやまった対応に応じてしまうところだった。

結局、その夫婦は(意地を張って)メンバーズカードをスキャンしてもらい、会計をやり直してもらった。「スキャンしてもクーポンや優遇もないとわかっている。ちゃんと仕組みを説明してもらえばスキャンしなくてもよかったのだが、最初にメンバーズカードはありますかという問い掛けもなかったし、『一緒には利用できません』と騙されるとは思いもしませんでした」と本音を吐いた。

その後1年、偶然かもしれないが、いつも豪快に日本観光を楽しんでいたこの夫婦は、その後1回も日本に来ていない。

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