訪日客が本当に望んでいる「おもてなし」の姿 実は「不安要素」ばかりのインバウンドの現場

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その理解がなければ、「なんで外国人なのにメンバーズカードを持つの? たいしてメリットも受けられないのに」という誤解を招くだろう。彼らの本当の深層心理は、「地元民みたいにメンバーズカードを持つ、使うことで自慢したい」である。それを理解できないことが問題なのだ。

顧客理解不足以外に…

もう1つの例を紹介したい。

読者の皆様は、日本のある航空会社で、国際線機内販売で購入したとき、すてきなラッピング袋をもらえることはご存じだろうか。紐を結べば、とても上品でかわいいギフトに仕上がる。

私が定期的にインタビューする20代後半の北京出身の女性がいる。彼女が年数回は日本にくる日本ファンであり、航空会社のサービスまで比較し、たくさんの情報を収集している。彼女はその袋が大好きで、その袋でプレゼントを贈りたいため、訪日する度に、その航空会社にいつも乗り、機内で買い物をすることを楽しみにしていたそうだ。

彼女は、2月に東京から北京帰りの便で、親戚にお土産を渡すため4個のお土産を購入した。そこで、客室乗務員(CA)に「プレゼントにしたいので、予備を見込んでラッピング袋を5つもらえませんか?」とお願いしたところ、CAは非常に驚いた顔をし、「申し訳ありません。数が限られており、機内販売の数しかお渡しできません」と。「わかりました。(たぶん在庫が少ないだろうから)では3枚もらえませんか?」と再度依頼すると、CAはそのまま席を離れたそうだ。

しばらくしてから、ラッピング袋一束を持ちながら、「これは、今日の往復用ですが……(少ないから欲しいと言わないで)」という。彼女はさすがにおかしいと思い、「在庫が少ない(から渡したくない)というのはお客に言う話でしょうか」と質問した。10分ほど放置され、再度戻ってくると、購入商品の確認もせず、無言のまま会計をし、商品とラッピング袋を置いていったという。

彼女がいつも楽しみにしていた機内での買い物は、不愉快な記憶になった。「なんでお客なのに、こんな態度をされないといけないの? ラッピング袋は、外国人だからだめなの?」と私に悔しそうに質問したが、私は何も応えられなかった。

おそらく、そのフライトは、外国人客が多く、ラッピング袋の存在を知る人が少ないと考え在庫量が少なかったのではなかろうか。したがって、エコノミークラスの彼女に渡したら、ビジネスクラス、ファーストクラスのお客のリクエストに応えられなくなる恐れがあるので渡したくなかったのだろう。

上記のメンバーズカードと同じく、おそらく、このCAもたまたま「気づき」ができなかったのだろう。日本の航空会社のきれいにラッピングできる袋が、外国人の彼女にとってどれほど大事なものであり、その袋で相手に尊重と喜びを感じてほしいという気持ちを理解できなかったのだろう。

とはいえ、CAを責めることはできない。この「顧客理解」ができていない原因は、3つ目の課題でもある、人手不足によるものだと思うからである。

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