日本人が知らない航空機電動化という新潮流 ノルウェーが2040年までに国内全線に導入へ

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エアバス(左)とズナムエアロのハイブリッド電気航空機(写真:AVINOR提供)

両社の特徴は、12~19座席程度の短距離用ハイブリッド電気航空機を開発することだ。「200~300キロメートルなら純粋な電気駆動が可能。発電機でバッテリーにチャージすれば、1000キロメートル程度に航続距離を延ばせる。2025年までには商業航路でのテスト飛行を始める予定だ」(ファルクペテルセン氏)。さらに、2030年までに初の電気航空機の商業航路を開設し、先述のように2040年までにすべての国内線を電化する計画である。

バッテリーが重いため、電気航空機は短距離から始めざるをえない。その点、アビノールは有利だ。日本と同程度の国土面積であるノルウェーは、ほとんどが短距離路線だからだ。道路や鉄道の発達が遅れ、人口の3分の2が空港まで1時間以内の場所に住む。ノルウェー西部、北部に至っては人口の3分の2が空港の30分圏内に住んでいる。26空港は短距離用滑走路しか持たず、電気飛行の範囲に収まる40~170キロメートルの国内路線が40以上もあるという。

欧州において、僻地や離島向けなどで補助金により維持される「PSO(公共サービス輸送義務制度)路線」も抱えるノルウェー。電気航空機は、少ない乗客でありながら運航コストを半減できるとみられており、その利点が生かされそうだ。

拠点空港を経由する「ハブ・アンド・スポーク」の形態を取らず、中小空港同士を直接結びやすくもなる。仮に直行便化され、かつ航空チケットも半額になるとなれば、顧客のメリットは計り知れない。SASとその関連会社でノルウェー国内路線を展開するヴィデロー航空が電気航空機の導入に意欲満々で、アビノールと二人三脚で商業路線化が進みそうだ。

エンジン2機よりもリスクが小さい

電気航空機の安全性についても現役パイロット=ファルクペテルセン氏のお墨付きだ。「電気航空機はたとえば、両翼で計20のモーターで動くなら、仮に1つが故障しても5%の損失に過ぎない。万一、2~4個のモーター故障でも支障はない。燃えやすいジェット燃料で動くエンジンを2つしか持たない今の航空機よりずっと安全なのは明らかだろう」

アビノールは2030年までに空港での燃料供給の30%をバイオ燃料にする目標も打ち出している。電気航空機では、ハイブリッド機が先行する見通しで、「われわれのハイブリッドソリューションとしては、ジェット燃料かガソリンか、あるいは水素(燃料電池)の供給か、まだ決まっていない」とファルクペテルセン氏は言う。

気になるのは、こうした流れに対する日本企業の動向だ。アビノールは、パナソニックやトヨタ自動車はバッテリー分野で期待しているというが、より航空機に近いところでは日本企業の名は聞かれなかった。考えてみれば、三菱重工業が社運をかけて開発する短距離小型航空機「MRJ」はジェットエンジンだ。世界最先端の環境立国ノルウェーと比べるのは酷かもしれないが、彼我の差を感じざるを得ない。

「EVと同様に、航空分野でもマインドセットを変えることが重要だ」とファルクペテルセン氏。「電気航空機の商業航路が実現する頃には、私は年金生活者になっているが、必ずファーストフライトでの最初の乗客になる」と笑顔で語る。

週刊東洋経済3月31日号(3月26日号)の特集は「電力激変」です
野村 明弘 東洋経済 解説部コラムニスト

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のむら あきひろ / Akihiro Nomura

編集局解説部長。日本経済や財政・年金・社会保障、金融政策を中心に担当。業界担当記者としては、通信・ITや自動車、金融などの担当を歴任。経済学や道徳哲学の勉強が好きで、イギリスのケンブリッジ経済学派を中心に古典を読みあさってきた。『週刊東洋経済』編集部時代には「行動経済学」「不確実性の経済学」「ピケティ完全理解」などの特集を執筆した。

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