森友問題のせいで「消費増税延期」はいいのか 財務省不信で改革停滞なら、困るのは国民だ

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もし森友問題が引き金となり、(今のところは可能性が低いとみられる)安倍内閣の総辞職、あるいは自民党総裁3選が実現できなければ、消費増税の判断は、次の首相・自民党総裁に委ねられることになる。

次の首相が予定どおりの消費増税に肯定的なら、消費税率は2019年10月に10%となる。

社会保障財源確保と森友問題は切り離すべき

これらのシナリオのうち、どれが実現するかはまったく予断を許さないが、財務省の信頼に傷がついたことから消費増税は延期確定、とは単純には言えないことだけは確かだ。それよりも、財務省への不信を理由に税財政改革を遅らせて、困るのは財務省ではなく、国民である。

今回の文書書き換えが起きようが起きまいが、2025年には団塊世代は75歳以上の後期高齢者となり、これまで以上に医療や介護の給付を必要とする。特に1人当たり医療費の場合、75歳以上は、64歳以下の約5倍にもなる。1人当たり介護費は、75歳以上が、65~74歳の約10倍。75歳以上の人口が増えると、それだけ多く社会保障費が必要となる。

75歳以上人口の伸び率は、2022~2024年には年率4%を超える。経済成長を促すことは大事だが、経済成長しさえすれば社会保障費を賄う財源は増税せずとも確保できる、とはとても言えない伸び方だ。社会保障財源の安定的確保と社会保障給付の重点化・効率化を同時に進めていかなければ、社会保障制度を持続可能にすることはできない。

財源確保は給付そのもののためだけに必要なのではない。医療機関が入院の必要な患者を受け入れられる体制を整える必要があるし、介護施設の入所が必要な要介護者を受け入れられる体制を整える必要もある。

他方、不必要な社会保障負担を重く課さないようにするには、社会保障改革が不可避だ。それには、疾病構造の変化を踏まえた効率的な医療提供体制、緩やかなアクセス制限を含む地域包括ケアシステムの構築が必要である。個人で対応できない大きなリスクには共助でカバーする反面、小さなリスクは自助で対応するという考え方を浸透させることで、給付を重点化することができる。

さらにいえば、高齢者だけに恩恵の及ぶ社会保障を充実しさえすればそれでよいわけはなく、子育て支援のための財政支出にも、財源は必要である。デフレ脱却後の金利上昇を見据えれば、財源を大量発行する国債にいつまでも依存して、将来にツケを回し続けることはできない。

必要な社会保障財源をしっかり確保していくには、森友文書問題が起きたからといって、決して増税から眼を背けていいものではない。

土居 丈朗 慶應義塾大学 経済学部教授

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どい・たけろう / Takero Doi

1970年生。大阪大学卒業、東京大学大学院博士課程修了。博士(経済学)。東京大学社会科学研究所助手、慶應義塾大学助教授等を経て、2009年4月から現職。行政改革推進会議議員、税制調査会委員、財政制度等審議会委員、国税審議会委員、東京都税制調査会委員等を務める。主著に『地方債改革の経済学』(日本経済新聞出版社。日経・経済図書文化賞、サントリー学芸賞受賞)、『入門財政学』(日本評論社)、『入門公共経済学(第2版)』(日本評論社)等。

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