見積もり60万円!「引っ越し難民」続出の背景 SNS上では「予約できない」など悲痛な叫びも

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引っ越し業者約1200社が加盟する全日本トラック協会の調査によると、ここ数年は引っ越しの件数に大きな変動は見られない。

他方、同協会の礎(いしずえ)司郎・輸送事業部長は、「この2年ほどで各社が長時間労働の対策を進めたため、1日当たりの対応可能な引っ越し件数が減っている」と指摘する。かつては1台のトラックで1日に3回できていた引っ越しが、今年の繁忙期は2回が限界だという。

単身引っ越しの新たな選択肢も

業界2位のアート引越センターは、運転手不足や働き方改革で昨年春の受注件数を前年同期比で2割抑制。今春は回復傾向にあるが、一昨年の水準に及ばない。

物流ベンチャーのCBクラウドが手掛ける荷物配送のマッチングサービス「Pick Go(ピックゴー)」(撮影:田所千代美)

引っ越し市場はサカイ引越センターを筆頭に大手6社が約7割のシェアを占める。引っ越しを兼業する中小運送業者の中には、働き方改革や大手との受注競争が激しくなっていることから、引っ越しの仕事をやめるところも出始めた。

こうした中、物流ベンチャーのCBクラウドは、引っ越しをしたい個人と仕事が欲しい軽貨物運転手をネット上でマッチングするサービスに力を入れる。3月上旬の平日、ある留学生の東京23区内での引っ越しは、荷物の量が軽ワゴン1台分で料金は5000円を切った。「運べる荷物の量には制約があるが、単身引っ越しの新たな選択肢として消費者に訴求したい」(松本隆一CEO)。

大手各社も逼迫する現状を改善しようと、引っ越し時期の分散を呼びかけてきた。だが、現時点で人事異動の時期をずらす企業は限られ、“焼け石に水”となりそうだ。全日本トラック協会は、繁忙期に引っ越しの需給が逼迫する状況は当面続くと見ている。

引っ越し各社の運ぶ力が低下すれば、春先に集中する進学や就職、異動という日本社会の仕組み自体が維持できなくなる。業界と社会の双方に大きな課題が突き付けられている。

木皮 透庸 東洋経済 記者

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きがわ ゆきのぶ / Yukinobu Kigawa

1980年茨城県生まれ。一橋大学大学院社会学研究科修了。NHKなどを経て、2014年東洋経済新報社に入社。自動車業界や物流業界の担当を経て、2022年10月から東洋経済編集部でニュースや特集の編集を担当。

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