私が半沢直樹もあまちゃんも、嫌いなワケ ブームは、本当に価値を生み出すのか

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ビックデータは、その欠点を解消したものというとらえ方もできるが、分析がブラックボックス化し、集計結果という情報に集約し、個別具体的な情報を捨象し、情報の豊かさを減らしているため、新しいものの発見を減らす可能性もあるから、逆の見方もできる。金融市場における投資こそ、この2つの歪みが最も鮮やかに顕在化している領域である。

「中身」より「流れ」を重視する現代

株式投資で言えば、誰も気づいていない隠れた価値のある銘柄を発見するのが最も優れた投資法であり、人々の見方が偏っているときに、逆の見方で企業を評価するのが逆張りの発想であるが、昨今は、この投資法の優位性が低下している。そうではなく、ブームをブームの直前に見抜く、あるいはブームになったらそれに飛び乗り、ブームが終わる前に飛び降りるのが最高の儲け方であり、それが王道となっている。

アルゴリズム取引というのも、本質は超短期の流れに乗っていち早く降りることであり、プロの機関投資家、個人投資家を問わず、いわゆるモーメンタム投資、流れに乗る投資をしないと儲けることができない。

同時に、世界中のさまざまな金融商品に投資するのが常識になっているから、日本の個別株を一企業ごとに選別する投資家は例外中の例外で、株が買いか売りか(リスクオンかオフか)、日本が買いか売りか、だけを考える。ビックデータ並みに大きな結論だけを必要とし、トピックスインデックスや日経平均インデックスしか買わないのである。

アベノミクスで儲けた株式投資家も同じである。アベノミクスの中身など関係なしに、日本が動くというストーリーに乗って、買いまくった。それで流れを作り、追随者を作った。それがすべてだった。そして、それは自己実現のように、日本経済のムードをも変えた。株と為替という金融市場が実体経済を変え、人々の心を動かしたのである。人々もアベノミクスブームに乗って、消費へ急に動いた。これが現代の金融市場であり、経済であり、社会である。

私はひねくれものだから、アベノミクスを批判しているのかもしれないが、中身が間違っていると思う以上、批判を続ける。そして、それが価値のあるものであるか、それともブームに水を差すだけのものであるかは、ブームのメカニズムが永続的なものであるかどうかにかかっている。もちろん、私はそうは思っていないのだが。

小幡 績 慶應義塾大学大学院教授

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おばた せき / Seki Obata

株主総会やメディアでも積極的に発言する行動派経済学者。専門は行動ファイナンスとコーポレートガバナンス。1992年東京大学経済学部首席卒業、大蔵省(現・財務省)入省、1999年退職。2001~2003年一橋大学経済研究所専任講師。2003年慶應大学大学院経営管理研究学科(慶應義塾大学ビジネススクール)准教授、2023年教授。2001年ハーバード大学経済学博士(Ph.D.)。著書に『アフターバブル』(東洋経済新報社)、『GPIF 世界最大の機関投資家』(同)、『すべての経済はバブルに通じる』(光文社新書)、『ネット株の心理学』(MYCOM新書)、『株式投資 最強のサバイバル理論』(共著、洋泉社)などがある。

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