安倍政権「富の先食い」政策は、もう限界だ 労働市場改革は頓挫、金融・財政頼みの弊害

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財政面では、2015年10月に予定されていた消費税の10%への引き上げを安倍首相が2度、計4年にわたって延期した。2019年10月となった消費増税でも、財政再建に充てる分を子育てなどに回すことになり、財政再建の道のりはいっそう険しくなっている。安倍政権が金融、財政の両面で、将来世代の「富の先食い」をしていることは明らかだ。

自民党内には「安倍首相は9月の総裁選で勝ち、2021年まで首相を務めれば満足なのだろう。その後の経済情勢がどうなろうが、関心はないようだ」(派閥領袖の一人)という見方さえ出ている。「将来世代のことを考えず、今さえよければ、という政策だ」(閣僚経験者)という批判がくすぶり始めている。

円安・株高のみ、成長戦略・構造改革進まず

一方、安倍首相はいまの通常国会を「働き方改革国会」と位置づけて、関連法案を提出する方針を示してきた。残業の上限規制や非正規労働者の待遇改善に加えて、裁量労働制の対象範囲拡大が大きな柱となるはずだった。ところが、裁量労働について厚生労働省が集めてきたデータに多くの誤りがあることが判明。安倍首相はこのデータに基づいて「裁量労働のほうが一般労働者より労働時間が短いというデータもある」という国会答弁を続けてきたが、それらをすべて撤回。謝罪に追い込まれた。

野党の攻勢はやまず、結局は関連法案の中から裁量労働制の拡大に関する部分を分離することを余儀なくされた。裁量労働制拡大は当面見送りとなったのである。裁量労働制の拡大はアベノミクスの成長戦略の大きな柱とされ、財界も期待していただけに、政権にとっては大きな打撃となった。

2012年の発足から5年余となる安倍政権。アベノミクスの旗を掲げて経済再生を進めた。第1弾の金融緩和が効果をあげ、円安・株高をもたらしたが、その後の成長戦略・構造改革がうまく進まず、金融緩和だけがズルズルと続いた。財政再建も遅れが目立ち、人々の将来不安が払拭されない。

安倍首相が秋の総裁選で3選を果たし、このまま「富の先食い」政治が続くのか。それとも将来世代にツケを残すなという勢力が台頭してくるのか。憲法改正が大きな論点となるとみられてきた自民党政局だが、経済論争も重要なテーマに浮上してきた。

星 浩 政治ジャーナリスト

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ほし ひろし / Hiroshi Hoshi

1955年生まれ。東京大学教養学部卒業。朝日新聞社入社。ワシントン特派員、政治部デスクを経て政治担当編集委員、東京大学特任教授、朝日新聞オピニオン編集長・論説主幹代理。2013年4月から朝日新聞特別編集委員。2016年3月からフリー。同年3月28日からTBS系の報道番組「NEWS23」のメインキャスター・コメンテーターを務める。著書多数。『官房長官 側近の政治学』(朝日選書、2014年)、『絶対に知っておくべき日本と日本人の10大問題』(三笠書房、2011年)、『安倍政権の日本』(朝日新書、2006年)など。

 

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