――すばらしいビジョンを実現するためのモデルとなる劇場はあるのでしょうか。
実際に仕事をしてきたフランス国立リヨン歌劇場やモネ劇場はとても参考になります。そこで支配人たちが尽力していたのは、メトロポリタン歌劇場(ニューヨーク)やコヴェントガーデン(英国ロイヤル・オペラ・ハウス)のような大型のオペラハウスではできない試みでした。
コンパクトなスペースの中で演劇的要素がオペラティックなものと結び付いているということ。そしてビジュアルの成果やレパートリーの選択ですね。観光客も含めて毎晩何千人も集めなければならない大劇場ではなかなかとりあげられない新しい演目を手掛けることや、発掘された作品を上演することです。
それによって物事を幅広くとらえる感覚が劇場全体に浸透するのです。演出家はもちろん歌い手や技術部の人たちまでが「こんな演目は初めてだ」といった経験を重ねている劇場はとても刺激的です。それは聴衆にとっても同様です。知られざる作品や復刻上演される作品を入れることによって王道であるワーグナーやヴェルディがより輝いてくるのです。
ワーグナーの前後を知らなければワーグナーの価値はわからないし、作品の評価も違ってくるのだと思います。それが伝統であり、聴衆へのプレゼンテーションや教育へつながるということです。
そのために力を入れたいことがネット配信を中心とした広報活動です。私たちの日常の活動や最新情報を、映像を交えてどんどん配信していきたいと考えています。私自身もホームページ等で話をしますし、ここぞというプロダクションのときには説明会も開きたい。あるいは演出家のインタビューや新作オペラのパネルディスカッションをネット配信するといったことも行いたい。そうすることによって、“東京オペラ”の今が世界のどこにいてもよくわかるようになります。
ライブビューイングは時代の必然
――すでにウェブサイトやSNSで展開されているマエストロ大野のメッセージ動画はインパクト抜群ですね。映像を駆使するという意味において、今はやりのライブビューイングの可能性についてはいかがでしょう?
“東京オペラ”ならではという演目が作り上げられた際にはその可能性も考えたいと思います。ライブビューイングはまさに時代の必然でしょうし、オペラをより一層広めるという意味では絶大な効果を持っていると思えます。
たとえば、東京においては2020年のオリンピック後に施設が空くと思います。そこを活用できないかと考えます。その頃には私の4年契約の第1シーズン第2シーズンが終わっていますので、世界、あるいは日本中の人々に映像の形でプレゼンテーションできる作品がいくつか出来上がっているような気がします。
ウィーンでは劇場内の音楽をそのまま大音量で広場に流して、周辺のレストランやカフェでくつろいで聴いている人がたくさんいます。これは理想的ですね。新国立劇場の周辺であれば新宿中央公園や都庁ですかね(笑)。特に小さな子どもさんを持つご両親など普段劇場に足を運べない人のためにはぴったりです。
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