とはいえ、黒田総裁が「財政ファイナンスはしていない」と表明しただけで、財政ファイナンスにはなっていないと断じられるだろうか。日銀は新発国債を直接引き受けることをしていないが、政府が発行した国債を日銀が間接的に市場から買い入れている。そしてその量は未曽有の規模に達している。
財政ファイナンスか否かは、量が多いか否かで決まるものではない。むしろ、日銀の国債買い入れ(いわゆる買いオペ)が政府から独立して日銀の政策判断で行えているかどうかが重要である。たとえ、日銀が直接引き受けていなくても、政府が決める国債の新規発行のタイミングとほとんど同時期に、日銀が国債を買い入れざるを得ない状態であれば、それは財政ファイナンスというも同然の状態だ。なぜなら、そうした状態では市中の通貨供給を日銀でなく政府が事実上決めていることになり、日銀の意思で通貨価値を制御できなくなっているからである。
今までのところ、日銀が市中の通貨量を制御できなくなるほど、国債を買い入れているという様子はない。マイナス金利付き量的・質的金融緩和(マイナス金利政策)を行っていた時期までは、マネタリーベースが年間80兆円程度の増加になるように政策を講じていたが、2016年9月以降、長短金利操作付き量的・質的金融緩和(イールドカーブ・コントロール)を行うことになって、その額を年間50兆円程度の増加になるように変更した。ここには政府の国債増発との連動性はない。その意味では財政ファイナンスとはいえない。
ただし、今まではそうでも、今後そうでなくなることはあり得る。
消費増税の対策で財政出動をする気か
2月20日に開催された経済財政諮問会議では、2019年10月に予定されている消費増税に合わせて財政出動してはどうか、という議論が出た。これは、消費増税後の民間消費の反動減を心配してのことだが、財政出動をするにしても、その財源は新発国債によらざるを得ない。
増税の反動減対策として、大規模な財政出動を主張する立場からは、金融政策だけではインフレ目標2%を達成できないから財政出動も行え、という意見が出ている。もし、その通りに国債増発を伴う大規模な財政出動を行えば、どうなるか。
現在の日銀は、イールドカーブ・コントロールという、金融政策の緩和スタンスをとっている。それを維持するなら、長期国債の金利がほぼゼロになるように日銀は国債を買い入れて、買い入れと同額の通貨供給を行うことになる。そこで国債増発を伴う大規模な財政出動を行えば、政府が国債を増発すると同時に、イールドカーブ・コントロールの名の下に長期国債の金利がほぼゼロになるように、日銀は国債を買い入れ、それと同額の通貨を供給する。これこそ前述の意味での財政ファイナンスだ。
これに対しては、デフレ脱却を目指しているのだから、物価上昇つまり通貨価値の下落を促すべきなので、大規模な財政出動の何が悪い、と思うかもしれない。
しかし問題は、デフレ脱却・インフレ目標2%達成後(まさに「出口」)に、日銀が通貨価値を安定させられるように制御できるか、である。
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