51歳、栃木で「生姜の展示館」作った男の稼業 「岩下の新生姜」はだから若者にも愛される

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岩下食品は長い歴史を持つ食品会社であり、らっきょう漬けと生姜漬けのトップシェアを持っていた。しかし岩下食品という社名はほとんど誰も知らなかった。つまり知名度的には、存在していないに等しい会社だった。

CMが放映された結果、急激に会社と商品名の知名度が上がった。もちろん宣伝効果にはなるが、逆宣伝効果になる可能性もあった。

自分が継ぐことになるならば、もう会社に入ったほうがいいと考えて26歳のときに岩下食品に入社した。

「ワンマンの中小企業ですから、コンプライアンスなど整っていない部分もたくさんありました。知名度が上がってしまうと、そこが問題視されるケースもあります。

私はそういう部分を修正する、ブレーキ役でした。ただし管理はしなければならないけれど、管理過多になると『高コスト』『競争力低下』『客離れ』などろくなことがありません。バランスを取るのが難しいですね」

そして2004年、父親の後を継ぎ、岩下食品の社長に就任した。

しかし社長になってもしばらくはあまり目立った変化を起こせなかった。それは退任したとはいえ、いまだ会社に毎日来ていた父に気を遣ってのことだったかもしれない。

「実父から経営権を譲られたので、彼の古くからの意向にも配慮せざるを得ないという思いが重かったです。親子で同じ職場で働いている場合、単に仕事についての考えの相違が家族対立に進展しがちで、簡単には割り切りがつけにくいものでした。

2014年4月に父が亡くなり、気を遣う必要がなくなりました。そこからはきっぱり割り切りをつけて、前から考えていたことを実行することにしました」

若い世代の消費者をどう取り込むか

漬け物業界は現在非常に厳しい状況に置かれている。まず“漬け物”という伝統食文化の厳しさがある。習慣として食べる人が昔に比べて減っている。

それに加え、健康上の理由からも食べることを敬遠されがちだ。厚生労働省は「塩分をとりすぎないようにしよう」というプロモーションに力を注いでいる。漬け物は“塩分の高い食品”というネガティブなイメージをつけられてしまった。

若い世代の消費者を取り込むことはできず、また従来の年配者の消費者はより少なく食べることを選択するという状況になった。

岩下社長(筆者撮影)

「漬け物に対してはネガティブなイメージがあるのですが、生姜には“身体があたたまる”“さまざまな薬効が期待できる”などポジティブなイメージがあります。

無理に業態を変更しなくても、イメージを変えるだけでお客様に喜んでいただけるのではないか?と思ったんですね」

高齢者の客層にどのように尽くすのかは経営上大事な課題だが、未来を考えるとどう若い人たちを取り入れていくかを優先しなければならない。岩下社長はSNSのツイッターを介して、若者の意見を探ってみた。すると若い人たちには“岩下の新生姜”は、“漬け物”というより“生姜”というイメージを持っている人が多いということがわかった。

そして、岩下の新生姜を愛してくれている人が多いのを知った。

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