「ひきこもっていたときは、1カ月以上家から出ないこともありました」と語るのは、東京大学卒の秋田友貴さん(28歳)。ひきこもりになったのは、今から5年以上前の大学院1年生の夏のころだった。東京大学をストレートで卒業し、将来は理学系の研究者になりたいと考えていたので、大学院に進学した。しかし、大学院に進学すると求められる学習レベルが急激に上がり、研究が行き詰まってしまう。
当時の秋田さんは「研究は個人で進めるもの」というイメージを強く持っており、教授や周りの院生に自分がやっている研究について相談したり、アドバイスをもらったりすることをしなかった。行き詰まった状況を自力で何とかしようとしたものの、研究はまったく進まず、月次で開催される進捗発表会を無断欠席してしまう。
無断欠席をしてしまった後ろめたさと、研究への挫折感から、約1年半のひきこもり生活が始まる。秋田さんはアルバイトをしていなかったこともあり、家から一歩も出ない生活が続いた。全く学校に来なくなってしまった秋田さんを心配して、教授や研究室の仲間が連絡を取ってくれるのだが、「むしろその連絡が一番の恐怖だった」と、秋田さんはそのころを振り返った。
オンラインのオセロゲームで過ごす毎日
外界との接触は、半期に一度の休学延長申請のために訪れる学生課の窓口の事務員と、月に1度料理を作るために上京してくれる母親だけだった。「このままではいけない」と思ってはいても、何も行動に移すことができず、パソコンの前に座り、オンラインのオセロゲームをして過ごす毎日だった。
そんな状況に転機が訪れたのは、ひきこもってから1年半が経過したときだった。2度目の休学期間の延長申請に学生課を訪れた際、これ以上休学期間を延長しても状況は何も変わらないと思い、中途退学を決意する。
だが、中途退学をしたことで自分のステータスは「学生」から、「ニート」となり、さらに何もできることがないと、秋田さんの焦りをさらに強くした。
「どうせなら、何もできないニートではなく、何かできるニートになろう」。まずは自分の興味があることを模索。毎日12時間以上オセロゲームをやるほどのオセロ好きだったこともあり、自分でオセロゲームを作り始める。プログラミングは完全に初心者ながら、C言語というプログラミング言語を勉強し始めた。勉強するための時間は膨大にあったことから、短期間でオセロゲームを完成させることができた。
この経験からプログラミングが自分の性格に合っていると感じ、研究を投げ出したことで失っていた自信を少しずつ取り戻していった。
秋田さんは、ニートから社会復帰するため、プログラマーとして就職しようとこのときに決意する。
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