「社会派映画」に挑んだスピルバーグの使命感 ペンタゴン・ペーパーズ事件を描いた力作
一方、ライバル紙に出し抜かれたワシントン・ポスト紙の編集主幹ベン・ブラッドリー(トム・ハンクス)たちは、大慌てで残りの文書を独自に入手する。その全貌を伝えようと奮闘するが、公表をすればニクソン政権が圧力をかけてくるのは必至だ。この文書を公表するかどうかは、同紙発行人のキャサリン・グラハム(メリル・ストリープ)の決断にかかっていたが、政府を敵にまわすということは新聞社存続にもかかわる大問題でもあった。
会社の経営のことも考えて、政府を刺激することはやめるべきか。それとも、政府がついてきたうそを暴き出し、ジャーナリストとしての信念を持って「報道の自由」を守るべきか。その板挟みとなったグラハムたちの苦悩と葛藤が本作の大きな見どころのひとつとなっている。
ここでもメリル・ストリープのすばらしい演技が見られるのは言うまでもない。当然のごとくメリル・ストリープは第90回アカデミー賞主演女優賞にノミネートされた。彼女がオスカーにノミネートされるのは、実に21回目のこととなる。
スピルバーグ監督が「今すぐ撮るべき」と決断
脚本にも注目が集まる。ハリウッドには、スタジオの重役をはじめとした映画関係者が、未映画化となっている脚本に投票を行う「ザ・ブラックリスト」と呼ばれるリストがある。埋もれた脚本にスポットライトを当てるこのプロジェクトからは、『スラムドッグ$ミリオネア 』『ソーシャル・ネットワーク』『スポットライト 世紀のスクープ』といった賞レースをにぎわせた名作を数多く輩出してきた。
このリストは近年、映画業界人から熱いまなざしを受けているわけだが、脚本家リズ・ハンナが執筆した本作の脚本は、2016年度の「ザ・ブラックリスト」で2位を獲得していた。ハンナの脚本は瞬く間に映画業界で話題を集め、スピルバーグ監督の目に留まったというわけだ。
スピルバーグ監督が本作にかける意気込みも相当なものだ。当時、スピルバーグ監督は、『機動戦士ガンダム』をはじめとした日本のアニメキャラクターが多数登場することでも話題のSF超大作『レディ・プレイヤー1』の制作中だった。しかしこの脚本に魅せられた監督は、「脚本の前提と優れた文章、徹底的な研究、そして特に(ワシントン・ポスト発行人である)キャサリン・グラハムの美しくパーソナルなところに引かれた。どうかしていると思われるだろうが、今すぐこの映画を作らなければならないと思ったよ。とにかく夢中になった」と語り、『レディ・プレイヤー1』の制作があったが、急きょ、本作の撮影を開始することに決めたという。
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