「シークレットマン」が教える権力との闘い方

丹念な取材でウォーターゲート事件を再現

「私が会ったマーク・フェルトは晩年の彼だからね。バリバリのFBI捜査官の頃ではなかった(笑)。娘を溺愛する父親という感じで、だいぶ柔らかくなっていたね。ただ、会ってみて感じたのは、自分がこの世に何を残していくのかという気持ちだった。そして自分がしてきたいろいろなことをすべて清算しなくてはならない、という気持ちを持っていた。なぜマーク・フェルトが告発をしたのか? それはきっと家族のためなんだと思う。父がこんな偉業を達成したということを、誇りに思ってもらいたいと。彼自身、(FBIの幹部として違法捜査を承認した罪に問われた)汚名を着せられ、家族にもつらい思いをさせていた。家族には誇りを持って、こういう父親だったと、言わせてあげたい。そういう家族への思いからとった行動だと思う」

原題は『Mark Felt: The Man Who Brought Down the White House』文字どおり、ホワイトハウスを追い込んだ男の生きざまを描く ©2017 Felt Film Holdings.LLC

そうした彼の行動を監督は、「日本人的」と表現した。

「マーク・フェルトの人物像って、日本人的なんじゃないんじゃないかと思う。彼には品格があるし、謙虚で高潔だ。アメリカ人は『俺が、俺が』となる人が多いが、彼は違う。上司のためではなく、大義のために行動している。そういう彼の姿に日本人は共感するんじゃないだろうか」

作品では、権力の闇を暴くメディアの存在も描かれている。ランデズマン監督も「権力と戦うメディア」への思いは人一倍強い。ジャーナリストの視点から、今回の作品作りを次のように語ってくれた。

「ジャーナリストの仕事はつねにネタ探しをしている感じ。何か面白いことはないかといつも目を見張っている。従軍記者として戦場の経験もあるが、つまらない日々が続いたと思ったら、突然にカオスになったりの繰り返しで、独特のリズムがあった。調査報道の経験も多いが、今回の映画はまさにそれ。犯罪調査をやっているような気持ちでしたね」

監督が抱くジャーナリズムへの危機感

そして、今のメディアが置かれている環境についての危機感を抱く。

PETER LANDESMAN(ピーター・ランデズマン)/1965年生まれ。2013年『パークランド ケネディ暗殺、真実の4日間』にて映画監督デビュー。ニューヨーク・タイムズ、『アトランティック・マンスリー』、『ザ・ニューヨーカー』などで報道記者や従軍記者として活躍。雑誌業界のピュリッツァー賞ともいわれる海外特派員クラブ賞で2度の最優秀国際人権報道賞を受賞している。そのほか、画家や小説家としても賞を受賞しており、これまで2冊の小説を発表。1995年に発表された『The Raven(原題)』は、翌1996年アメリカ文学芸術アカデミーで優秀なフィクションを書いた新人に与えられるスー・コーフマン賞を受賞 (筆者撮影)

「今のメディアの問題は、資金がない。予算がない。時間がない。充分に取材ができないということ。だが、それ以上に問題なのが、人々がニュースを読み解けていないということだ。いろんなフェイクニュースがメインストリームに流れてきている。人々は、ブログやオピニオン記事、ニュースの違いさえもわからなくなっている。だから情報は氾濫しているのに、その情報に対する理解が薄まってきている。それは良くない状況だ。それに加えて、トランプがメディアは『民衆の敵』だと言っているわけだからね……。『民衆の敵』なんて言ったのはソビエトのスターリンぐらいだよ(苦笑)」

くしくも今年は、このウォーターゲート事件の直前に起こった、ベトナム戦争に関する秘密文書が流出・暴露される「ペンタゴン・ペーパーズ事件」を、スティーブン・スピルバーグ監督が映画化している。キャスティングとして実現できなかった、トム・ハンクスが主役のひとりとして名を連ねているというちょっとしたエピソードもあるが、こうした、政治の腐敗やジャーナリズムの意義を浮き彫りにする作品が相次いで登場しているのは、今の時代の流れに警鐘を鳴らさなければならないという、米国民の思いが根底にあるのかもしれない。

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