「シークレットマン」が教える権力との闘い方 丹念な取材でウォーターゲート事件を再現

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しかし映画が完成したのは、それから10年以上の時を経てからであった。

マーク・フェルト役は『シンドラーのリスト』や『96時間』シリーズなどの出演作があるリーアム・ニーソン ©2017 Felt Film Holdings.LLC

「もともと監督がジェイ・ローチ(『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』『オースティン・パワーズ』)、そしてトム・ハンクスが主演をする予定だった。だが、その時に全米脚本家組合のストライキがあって。企画がいったん頓挫してしまったんだ。自分も映画監督として2作品監督することになってしばらく時間がとれなかった。しかし、あらためて監督も兼ねてでも映画化したいという話をし、企画が動き出すことになったんだ」

2007年に起きた全米脚本家組合のストライキとは、全米映画テレビ製作者協会に対して、ビデオソフトなどの二次使用料のベースアップを求めた全米脚本家組合が、数カ月にわたって起こした大規模なストライキのこと。脚本家がいなくなった現場は大混乱となり、多くの作品が製作中止、延期、およびスタッフの解雇などの憂き目を見た。

権力の腐敗の歴史は繰り返される

そんな本作が、仕切り直されて、改めて製作されたのは、2016年の大統領選の前のことだったが、偶然にもトランプ大統領が巻き起こしたロシア疑惑やFBI長官解任などが、ニクソン大統領の行動を想起させるとして、そのタイムリーさが話題を集めた。最初の企画から10年以上の時を経て、まさに現代に語るべき物語になった、ということかもしれない。

「この映画を撮っている時は、まさか大統領選でトランプが当選するなんて思いもしなかったからね。このタイミングでこの映画が公開されるというのは、本当に偶然なんだ。ただ毎日のように、しょうもないニュースがホワイトハウスから、出てきている。観客の皆さんが、政治の話に食傷ぎみになっていないといいんだけど(笑)。こうした政治の汚職や、腐敗というものは、いつの時代でも起こりうること。権力を握ると、驕りが生まれ、心にスキができる。もちろんウォーターゲート事件は特異な事件だったけど、権力の腐敗の歴史は、世界のどこでも繰り返し起きるものだと思う」

ランデズマン監督は、脚本を執筆するにあたり、フェルトの自伝などをベースに、徹底的なリサーチを行っている。だから、今回の映画は、マーク・フェルトはもちろんだが、この物語全体を、まるでノンフィクション作品のように再構築した感じがある。

マーク・フェルトは、退官後、違法捜査を承認したことで訴追されてしまう ©2017 Felt Film Holdings.LLC

「マーク・フェルト本人だけでなく、まわりにいたいろいろな人物にもインタビューをした。当時、FBIでは秘密文書となっていた文書も、公開されたものは徹底的に調べ上げた。そうすると物語が浮かんでくるんだ。ディープ・スロートの正体がフェルトであるとわかった今、いろいろとさかのぼっていくと、『あの出来事はこういうことだったのか』と、感じることがたくさん出てきた。だからジャーナリストとして、一から『ウォーターゲート事件』という物語を再構築していったということなんだ。情報元から話を聞き出すということは、監督業と似ているかもしれない。俳優からこういう芝居を引き出したい、ということは、情報元からこういうことを引き出したい、というところに似たところがあると思う」

脚本執筆にあたり、彼が亡くなる2008年まで、幾度となく直接会いに行き取材をしていったという。当時のフェルトは90歳を越えており、認知症の症状が出始めていたが、自身がとった行動や、なぜそうしたのかといった詳細はしっかりと覚えていた。

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