日本の「安全保障政策」に欠けている視点 「economic statecraft」とは何か
日本は安倍晋三首相の下で、安全保障面での国際的な存在感の向上のためにさまざまな取り組みを行ってきた。2012年に発足した安倍政権はそれまで続いていた防衛費の減少を止め、安全保障に関する官僚組織を再構築し、安全保障関連の政策や方針に大きな変化をもたらしてきた。
このような変化がある一方で、日本が安全保障上改善する余地のある重要な点が存在する。その最たるものが、経済的な手段を用いて地政学的な国益を追求する「economic statecraft(経済的な国策)」だ。欧米などでは認識され、政策に応用されているが、現時点では日本にない概念であり、日本語に直訳するのは難しい。
中国やロシアは多用し始めている
各国政府、特に中国やロシアなどは、このようなeconomic statecraftを多用し始めている。たとえば、他国が自国の意向に反する政策をとった場合に、見せしめとして輸入に制限をかける。あるいは、経済的に脆弱な国に対して、ODAや国営企業の投資をテコに一方的な依存関係を作り出すことで援助受入国を「借金漬け」状態にし、自国の意向に沿わない政策を取らせにくくする、といった政策だ。
米国がこうした経済外交をeconomic statecraftと定義し、米国としてもこれに対抗するeconomic statecraft戦略を描くべきである、という議論がオバマ政権末期から安全保障政策専門家の間で高まっていることが、トランプ大統領のニュースに埋もれて日本では認識されてこなかった。
年初には安全保障分野で著名な米国シンクタンクである戦略国際問題研究所(CSIS)が、米国は「中国の挑戦」に対抗するにはより洗練されたeconomic statecraftを用いる必要性があると提案したのに加え、ほかのシンクタンクもこのような政策の具体案を構想し始めている。