日本の「安全保障政策」に欠けている視点 「economic statecraft」とは何か

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これらの分析において重要なポイントは、米国がeconomic statecraft戦略を展開するうえで同盟国や友好国との連携の重要性を強調していることで、世界の経済規模で第3位にある日本との連携が極めて重要になることは間違いない。しかし、日本でeconomic statecraftの観点から米国と連携していかれる十分な構想と体制が整っているとは必ずしも言えない。

就任から5年、安倍政権は日本の安全保障政策の本質的な変革を進めてきた。政府は国家安全保障会議(NSC)を設立することで安全保障政策の意思決定過程を再編成し、首相官邸に権限を集約した。NSCは日本初の国家安全保障戦略を生み出し、その戦略を政策へと落とし込む「防衛計画の大綱」と「中期防衛力整備計画」を発表した。

また、「特定機密の保護に関する法律」を通過させ、集団的自衛権の行使を容認する憲法解釈変更をし、平和安全法制を作成した。米国との同盟関係を強化したほか、オーストラリア、韓国、インド、英国といった友好国との安全保障関係を深め、他のインド太平洋地域の国家と防衛協力も強化。さらに、「防衛装備移転三原則」と「開発協力大綱」を閣議決定した。そして政府は、宇宙とサイバー空間の側面を含む国家安全保障戦略を打ち出した。

このような目まぐるしい変化の中には、経済的な手段をもって戦略的に地政学的な国益を追及するeconomic statecraftの視点が抜け落ちている。近代化以来、国家権力の経済基盤を重要視してきた日本が、安全保障戦略の中で具体的な経済戦略を描き切れていないことは意外な事実であると言えるだろう。

日本も安全保障戦略では「経済」を意識しているが

近年の日本における安全保障政策上の変化において、経済的な側面がまったく強調されていないわけではない。日本の国家安全保障戦略には、「経済」または「経済的」という文言が57回述べられているのに加え、宇宙・サイバー空間における経済的重要性が強調されている。また、「開発協力大綱」と「防衛装備移転三原則」は、日本経済の活性化に寄与すべきであると言及している。

さらに、2013年の「日本再興戦略」では、積極的にODAを用いて世界規模のインフラプロジェクトや医療市場において日本が大きな割合を占めるよう呼びかけている。それにより「新興国の成長を取り込み、日本経済の活性化につながる」ようにさせ、「ODAを活用した中小企業等の海外展開支援」をするとしている。

また、日本は北朝鮮に対する制裁措置の適用を積極的に支持してきた国の1つである。ただ、その実行相手は敵対的な関係にある国家や国際的な協議によって合意された経済制裁相手でしかなく、日本の意向に沿わない政策をとられたからといって、特定企業や特定品目を対象とした経済制裁などの発動を行うことは決してなかった。

しかし、今後は米国も含めて、自国の意向に沿った政策がとられるか否かによってピンポイントでの経済制裁を繰り出し合う経済戦争時代であると他国が認識している環境において、日本も能動的なeconomic statecraft 戦略を描いておくことは不可欠だろう。

では、具体的に日本政府はどうするべきか。まず、経済的に関与・拡大をすべき領域の特定と優先順位付けを行う戦略を策定すると同時に、その戦略を実行するにあたって民間企業との連携が必要な場合は、発生するリスクを政府が負うような仕組みとするべきである。

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