ファンに応援される会社は一体何が違うのか 「ベンチャーウイスキー」社のケーススタディ

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熱いファンに支えられる企業・ブランドの事例を多数眺めてきた。これらを「ユニークな会社」「特殊事情を持つ」「経営者が突出している」として、例外的な位置づけでとらえるのは簡単だ。しかし、どこか一点でも自社との共通項を見いだすことができれば、そこを突破口として何かが変わるはずである。「ウチでは無理」な理由探しをするのではなく、「ウチでもできる」ところから、ぜひ参考にしていただきたい。

熱い情熱の伝播が生んだ日本産ウイスキー
ベンチャーウイスキー・吉川由美さん(ブランドアンバサダー)

長期低迷の続いた日本のウイスキー市場がV字回復を果たしている。そのきっかけをつくったのは、ハイボールの流行やテレビドラマだけではない。各地の小さな蒸留所が個性ある味を生み出し、日本産ウイスキーを世界水準にまで引き上げた結果の賜物である。

ブランドアンバサダーにインタビュー

その草分け的存在が、ベンチャーウイスキーの肥土伊知郎氏。クラフトマンとしての経験や研究に加え、2000軒ものバーで夢を語り続ける地道な努力が実を結び、開業時には多数のオーナーバーテンダーたちの支援が集まった。同社でブランドアンバサダーとして、広報活動を中心に活躍する吉川由美さんに、インタビューを試みた。

――販売促進については、どのような考え方で臨まれていますか?

当社では営業活動と広告宣伝は一切行っておりません。販促策といえば、飲食店や以前からお世話になっている直取引の酒屋さんに出すダイレクトメールくらいです。マスコミ取材は受けますが、有料パブリシティはしておりません。現時点では、蒸留所に見学に来られるプロのお客様に直接、当社の姿勢やビジョンをお伝えすることが、営業の軸となっています。最近は海外からもたくさんいらしてくれます。

一般の方には、ウイスキー祭などのイベントやセミナーに当社の造り手が出向き、直接説明する形をとっています。ウイスキーには直接伝えるべき、語り合うべき深い世界があるからこそ、こうしたスタイルが大切です。シングルモルトウイスキーには、蒸留所や樽一つひとつの個性を楽しむような文化があります。しかし規格品に慣れた方からすると、「品質にばらつきがある」とみなされかねません。ですから、私たちが直接丁寧に説明していく必要があるのです。

当社の十数人の従業員は、平均年齢30歳程度ですが、本物のウイスキー好きばかりです。夜な夜な秩父のバーに給料を注ぎ込みながら、お店の方に造り手の思いを伝える「仕込み担当兼営業担当」をしています。クチコミを通じて、新たな語り部をつくっていくのが当社のスタイルです。

ブランディングも、特に意識して行ってはおりません。ただ、ロゴマークやパッケージデザインは好評をいただいております。このデザインは、バーでたまたま同席していたデザイナーさんが肥土の話を聞いて共鳴し、そんな面白いウイスキーがあるならぜひ、ということで意気投合して協力してくれた経緯があります。酒場というコミュニティから新しい価値が生まれる、こういうところがベンチャーウイスキーらしさですね。

――吉川さん自身も顧客の立場から、ベンチャーウイスキーに転身されたそうですね。

私は2005年、帝国ホテルでバーテンダーをしていたころ、初めてイチローズモルトの存在を知りました。味もそうなのですが、肥土の人間性やその夢に共感し、すぐにブランドのファンになってしまいました。さらにその後私が渡英し、スコットランドでバーテンダーをしていた際にまたしても、肥土が売り込みに来たのです(笑)。ウイスキーを追い続けていく人生の中で、ご縁があればまた出会うだろうな、くらいに思っていましたけれども、こうした出会いがきっかけで肥土とともに仕事をすることになりました。現在は秩父に腰を据え、ブランドアンバサダーとして仕事をさせていただいております。

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