効率追求が「生産性」を落とす残念な3大理由 仕事は「長期と短期」2つのリターンがある

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しかしこれが罠なのです。既存顧客の維持と客単価アップは重要な課題ですが、そればかりに時間を使いすぎると、短期的な成果は出ても、次の「飯のタネ」となる新規顧客のパイプラインが細くなってしまうことになるからです。

そしてそれ以上に問題なのが、新規顧客開拓を通じて獲得できるはずのスキルが身に付かないということです。新規顧客を見つけ、アポを取り付け、何とかニーズを見きわめて提案をし、口座を開いてもらうという行為はハードルが高く、だからこそ、そこで得られるスキルも大です。

たとえば、顧客となりうる確度を見きわめるスキルや、顧客のDMU(実質的な購買意思決定者)を見出すスキル、相手の顔色を見ながら的を射た会話をするスキルなどです。これらの能力は営業の場面だけではなく、さまざまなシーンで生きてくるもので、それが中長期的な生産性を高めることにもつながります。

そうしたことをわかっている会社は、営業担当者の評価項目として「新規顧客獲得数」などを意図的に入れますが、現実にはそんな会社ばかりではありません。

近視眼的に成果をあげやすい(しかし新しいスキルが身に付きにくい)仕事にだけ一点集中で飛びついていないかを確認してみましょう。

効率化のつもりが、じつは自己満足になっている

局所的には効率があがっているのに、チーム全体としての生産性があがらないというケースもよく起きます。その典型が、上司が、自分がやったほうが速いと、仕事をどんどんこなしてしまうというケースです。これは先の落とし穴に加え、周りのスタッフのスキルがあがらないという、さらに困った事態にもつながります。

これは私自身も経験があるのですが、「自分がやったほうが5倍は速くできるし、手戻りもない」と思うような仕事は、時間に余裕があるとつい自分でやってしまいがちです。実際に仕事はサクサク進みますし、それ自体を楽しいと感じる人は多いでしょう。しかし、たとえ誰かに任せて5倍遅くなって、手戻りが発生しそうでも、時にはグッと我慢をして若手や新人、時には外部スタッフに仕事を振ることも必要です。

ではどこを任せて、どこは自分でやるべきなのでしょうか。将来のビジネスのあり方や育成方針によっても大きく変わってきますが、1つの目安は「自分でないとできない仕事か否か」を見きわめることです。

常日頃から周りの人間とのよい人間関係構築や適度なコミュニケーションをし、「ここは彼/彼女に任せても大丈夫だろう」「ここはちょっとストレッチが必要だけど、任せよう」「ここはしばらく自分が担当し、誰かに引き継げる体制を作ろう」と適切に判断して仕事を割り振っていくことが大切です。

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