円高はまだ始まったばかり、当面のメドは? 購買力平価からドル円の節目を検証する
では、ドル円という2通貨ペアではなく、円の総合的な価値を映す指標として実質実効為替相場(REER)で見た場合はどうか。理論的には平均回帰性向を持つとされるREERだが、2017年12月現時点では20年の長期平均との対比でマイナス24%の過小評価(つまり円安過ぎる)という状況にある。
米国財務省も実質実効相場で見た円安を警戒
ちなみに、米国財務省が半年に1度公表する『為替政策報告書』でも2017年春以降、円のREERが長期平均対比でマイナス20%以上割安であるという事実が指摘されており、トランプ政権の「円は安過ぎる」という胸中がにじみ出ている。だが、実は米国財務省の円相場に対するこうしたスタンスはトランプ政権から始まったことではない。近年、為替政策報告書の公表と共に話題になる「監視リスト」注)はオバマ政権の時代(2016年4月)から導入されたものである。
そのほかにもオバマ政権下で公表された同報告書は円相場に対して逐一、牽制を働かせてきた経緯があるだけに、米国財務省の抱く円安への警戒感は相応に根深いものがあると読むべきかもしれない。今後、日米FTA(自由貿易協定)交渉などが本格的に検討されるような局面になれば、米国の通貨・通商政策が「割安な円のREER」を意図的にクローズアップしてくる恐れがあり、円相場にとっては大きな政治リスクと考えられる。
ちなみに、実効レートを構成する主要貿易相手国のすべての通貨に対し、円相場が等しくプラス20%程度上昇すればREERは概ね長期平均への回帰を果たすことになる。これはドル円相場の90円割れまでが視野に入る議論であり、現時点でそこまで大きな話をする合理性はさすがに乏しい。とはいえ、ドル円のPPPで見ても、総合的なREERで見ても、円相場が「然るべき方向」にいよいよ動き始めたという事実は重く捉えたいところであり、その道程はまだ緒に付いたばかりというのが筆者の基本認識である。
注)「監視リスト」:為替操作国認定にリーチがかかった国のリスト。日本を含め5か国がリストアップされている。
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