北朝鮮が「仮想通貨」を狙い撃ちにする理由 仮想通貨が犯罪者の格好の標的になっている

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仮想通貨をめぐっては、2017年5月に新たな動きも確認されている。

2017年5月と言えば、サイバーセキュリティ関係者にとっては、世界を震撼させたランサムウェア「WannaCry(ワナクライ)」が確認された時期と記憶されている。5月12~15日にわたって拡散したワナクライは、仮想通貨で「身代金」を払うよう求めた犯行で、後に、米英政府をはじめ大手セキュリティ企業などから「北朝鮮による犯行である」と発表されている。

そのワナクライが猛威を振るった直後の5月17日、北朝鮮のユーザーが初めて仮想通貨ビットコインの「マイニング」を開始したことが確認されているのである。

仮想通貨では、送金など過去の取引を記録した取引帳簿がユーザーに共有されており、ユーザーの取引はユーザー同士で認証し合うことになっている。このシステムは「ブロックチェーン」と呼ばれている。さらに仮想通貨では、このやり取りの認証を行って帳簿に記録することで新しい仮想通貨が生み出され、手間を惜しまず協力した認証者には、見返りとして仮想通貨が付与される。これが「マイニング」と呼ばれるプロセスだが、マイニングは膨大な計算量が必要になり、コンピュータの能力の大半を費やさなければならない。

さらに、このマイニング作業にはかなりの消費電力も必要になる。現在、ビットコインのマイニングで使われている消費電力を合計すると、アイルランド1国の電力消費量に相当すると報じられているほどなのだ。

言うまでもなく、北朝鮮には十分な電力はない。ただでさえ電力が窮している独裁国家で、個人がマイニングのために電力消費を続けることは考えにくい。そんなことからも、政府主導でマイニングが行われていることは間違いないと言っていい。

最初にマイニングが確認された日から、北朝鮮のユーザーによるマイニングに関連する活動は急増した。その数は、1日に数百件になると報告されており、そこからも仮想通貨を獲得していると見られている。

現在、1度のマイニングで得られるビットコインは12.5BTC(ビットコイン)。昨年後半に高値を付けた際の1ビットコイン=200万円で計算すると、2500万円ほどが1度のマイニングで手に入ることになる。ただ、どれほどのマイニングを北朝鮮が成功させているのかは不明だ。また別の仮想通貨でもマイニングを行っているとも報じられている。

インドが重要な拠点

では、北朝鮮のサイバー攻撃は誰が担っているのか。当サイトでも過去に書いた通り(2017年6月7日「世界震撼『ランサムウェア』の背後で蠢く『米朝サイバー部隊』の実態」)、朝鮮人民軍偵察総局の121局がサイバー攻撃を行っている。人員は1600人ほどのハッカーと、作戦を支える4000人ほどの職員がかかわっている。

これまでは中国を主な拠点としてきた北朝鮮のサイバー部隊は、最近ではその拠点の多くを移動させている。現在、北朝鮮のネット活動の発信源は、多くがインドやネパール、マレーシア、インドネシア、タイ、ケニアなどに移っている。その中でもインドが重要な拠点となっており、北朝鮮によるサイバー攻撃の5分の1はインドから行われているという指摘もある。また日本にも、攻撃の中継点として使うプロキシ(代理サーバー)などを設置しているとも聞く。

ともあれ、2017年に入ってから、制裁で追い詰められつつある北朝鮮が、仮想通貨に狙いを定めた工作に力を入れていることは確かである。そして日本でも、コインチェックへの攻撃が現実に起きた。

こう見ると、今回、日本のコインチェックを襲ったサイバー攻撃は、2017年4月から始まった一連の流れにつながっている、と考えることができる。そういう状況証拠も、韓国・国家情報院がコインチェック事件に北朝鮮ハッカーの犯行説を唱えた背景にあることは間違いないだろう。韓国当局も、コインチェック問題は捜査対象にしているという。

もちろんこうした傾向から、北朝鮮の仕業に見せているまったく別の犯行グループが関与している可能性も消し去るわけにはいかない。

だがいずれにしても確かなことは、今後、仮想通貨の注目や人気がさらに高まり、価値がまた高騰していくようになれば、国家主体だろうが非国家主体だろうが、仮想通貨が犯罪者の格好の標的になるのは避けられないということだ。

仮想通貨では、強盗に遭ってしまったらもはやどうすることもできないのである。北朝鮮の犯行だったと確定されても、誰も何もできないのが実情だ。私たちができることは、サイバー攻撃に対する今以上のセキュリティ対策を一刻も早く行うことしかないのである。

(文:ジャーナリスト 山田 敏弘)

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