長期金利高騰の米国で起こる「不安なこと」 財政赤字を膨張させるトランプ政権への警鐘

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なぜかといえば、EU加盟国は、2020年代に財政収支を黒字にする方針だからだ。ドイツやオランダではもうすでに財政黒字になっている。高成長・低金利頼みで政府債務残高対GDP比が下がるのではない。財政健全化努力をすることで、政府債務残高対GDP比を下げる決意なのだ。

もっともEU加盟国は、緊縮財政にあえいで、経済成長が落ち込むとみているわけではない。財政収支を黒字化し、政府債務残高対GDP比が下がる中でも、実質成長率は1.2~1.4%と見込んでいるのである。

このように、日米とEU諸国は、極めて対照的といえる。確かに財政健全化の究極の目標は、政府債務残高対GDP比を安定的に引き下げること。が、高成長・低金利頼みで確実に達成しようとすれば、想定外に名目成長率が下がったり、国債金利が上がるだけでも、達成が危うくなってしまう。

歳出の抑制や税収の確保こそが正攻法

とりわけ冒頭に示したように、財政健全化に不熱心で国債を増発するとみられただけで、国債金利は上がることもある。さらには日米欧で展開されてきた大規模な金融緩和政策を、今後徐々に縮小していくとなると、そのときには金利の上昇は不可避だろう。米国や欧州では、すでにその予兆が出始めている。

政府債務残高対GDP比を安定的に引き下げるという、財政健全化の究極の目標を達成するには、財政出動に依存せずに経済成長できる基盤を構築しつつ、歳出の抑制や税収の確保による財政健全化努力こそが、正攻法であり王道なのだ。

土居 丈朗 慶應義塾大学 経済学部教授

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どい・たけろう / Takero Doi

1970年生。大阪大学卒業、東京大学大学院博士課程修了。博士(経済学)。東京大学社会科学研究所助手、慶應義塾大学助教授等を経て、2009年4月から現職。行政改革推進会議議員、税制調査会委員、財政制度等審議会委員、国税審議会委員、東京都税制調査会委員等を務める。主著に『地方債改革の経済学』(日本経済新聞出版社。日経・経済図書文化賞、サントリー学芸賞受賞)、『入門財政学』(日本評論社)、『入門公共経済学(第2版)』(日本評論社)等。

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