今回の予算教書では、米国の名目成長率は2018年に4.6%、2019~2028年は5%前後(4.9~5.1%)となる、と想定している。片や長期金利は、2018年に2.6%、2019年に3.1%、2020年に3.4%、2021~2028年は3.6~3.7%、と想定している。
もちろんこれは予算教書を作成するうえで、米行政管理予算局(OMB)が行う試算であり、衆目の一致する予想ではない。ある意味で政権の将来”願望”がにじむものともいえる。
向こう10年は名目成長率が長期金利を上回る状態が続く試算なら、政府債務残高対GDP比の分母であるGDPの伸びが、政府が支払う国債の利払費の伸びを上回って大きく増えるから、財政赤字は拡大しても、政府債務残高対GDP比は低下する、との読みだ。予算教書によると、連邦政府債務残高(民間から借りた分)は、2017年末に対GDP比で76.5%だったが、2022年末には81.9%まで上昇する。しかし、これをピークに比率は低下し、今から10年後の2028年末には、72.6%へと下がるという。
財政収支は赤字であっても、名目成長率が長期金利を上回る状態が続くと、政府債務残高対GDP比は下がる。実は同じような試算は、米国だけではなかった。日本だ。1月23日に内閣府が公表した「中長期の経済財政に関する試算」(以下、中長期試算)の更新版にある、「成長実現ケース」がそれである。
中長期試算の詳細は、本連載の拙稿『75歳以上「後期高齢者」のコストは削減可能だ』で詳述したところだが、成長実現ケースにおいて、名目成長率は2018年度に2.5%、2019年度に2.8%、2020年度に3.1%、2021年度に3.2%、2023~2027年度は3.4~3.5%となる、と想定している。一方、長期金利は、2018年度と2019年度に0.0%、2020年度に0.4%、2021年度に0.9%、2022年度に1.4%と徐々に上がっていくが、2025年度に3.2%とまだ名目成長率よりも低い。その後、2026年度に3.6%、2027年度に3.8%と、ようやく名目金利のほうが高くなると見込んでいるのだ。
その間、財政収支は赤字のままで、基礎的財政収支(=財政収支+利払費)は2026年度まで赤字のままでも、債務残高対GDP比が低下するとの試算結果を公表した。中長期試算の成長実現ケースにおいて、公債等残高は2017年度末に対GDP比で189.4%であり、これをピークに比率は低下していき、2022年度末には174.7%、2027年度末には158.3%にまで下がるという。
日米と違い、財政健全化に突き進むEU
日本も米国も、財政収支が赤字なのに、政府債務残高対GDP比が下がるのは、名目成長率が長期金利を上回る状態が長く続くという想定だからである。歳出削減したり増税したりして、財政収支を改善する、という財政健全化努力で実現するものではないのだ。
先進国はどこでもそうか。実はそうではない。
EU(欧州連合)加盟国は全く違う。1997年に安定成長協定(Stability and Growth Pact)を締結し、財政赤字対GDP比が3%を超えないようにすることなどからなる、過剰財政赤字の判定基準(「マーストリヒト基準」ともいう)を満たすよう、加盟国に求めている。この過剰財政赤字の判定基準を満たすため、各加盟国は財政収支を均衡または黒字にしようと、中期財政目標を設定。毎年の予算編成に際しては、将来の経済見通しもあわせて示している。ユーロ圏諸国は、“Draft Budgetary Plans”という形で、EUの政策執行機関である欧州委員会(European Commission)に提出、予算の内容や将来の経済見通しなどについて審査を受けている。
欧州委員会が公表する資料によると、EU加盟国では、確かに足元は欧州中央銀行(ECB)の量的緩和政策の影響で国債金利は名目成長率よりも低いながら、多くの加盟国で2022年ごろから国債金利のほうが名目成長率より高い想定となっている。それでもなお多くの加盟国では、政府債務残高対GDP比は低下すると見込む。
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