保育園、親のホンネは中身だって重視したい 「質の高い保育」は、どうすれば実現できるか

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井上竜:他の自治体は資格にはこだわっていない自治体が多いんですか?

井上正:国基準の、1:6を採用している自治体が大多数です。その中で本当に足りない時間帯だけ、サポーターで補えば結果的に保育士の負担も減る。もともと1:5の中でキュウキュウに回していくと無理が来てしまう。

後藤:東京都でも保育補助者への雇用補助事業というのがあって、これまで所定の研修を受けなければいけなかった要件が来年度から撤廃されると聞いています。資格は大事なことなんですけど、資格取得に向けて勉強されている方で、スキルにまったく問題ない方々も結構いらっしゃる。そういった方々にどんどん入っていただくのは非常にいいことだと思っています。潜在保育士も含めて「働きたい」と言っている方の上手い活用の仕方を考えていかないといけないと思います。

泉谷:保育士の数が多い方がいいと一般的には思われています。でも、保育士さんは、実際にはお掃除とか、「保育」以外のたくさんの業務をこなしている。そうした、子どもと接する部分以外のところを、事務職の人を雇ってやってもらうとか、資格職だけではない分担の仕方もあるんじゃないかと思うんです。

井上正:保育の現場の仕事は保育士でないと出来ない仕事とそうでない仕事があります。たとえばお掃除に関して言うと、我々は個人宅に限って外国人家事支援員の事業も始めましたけど、場合によっては保育所などの法人も利用できるよう規制を緩和してもらえないか国に働きかけているんです。

あとはICTの有効活用。たとえば「お昼寝チェック」で、保育士は5分おきにノートに矢印で上向き、横向きとメモしていって、下向きになっていたら起こすということを地道にやっていますが、今は特殊なモニターカメラなども実用化しつつありますので、赤ちゃんの寝返り状況や心拍数や体温などをきちんと計測した方がむしろ安全性は高まるかもしれない。また現在、経産省と組んで、自治体の報告や申請書類のICT化も実験しています。

そういうことをきちんと整理して議論しようと「保育の未来を創る会」という協議会を6社でつくって勉強会と国や自治体への提言活動をしているところです。

――現状では難しいんですか。

井上正:今まではできていなかった。とにかく保育士の数がすべて。質の議論はそこに終始してしまっていた。お掃除とかは保育士でなくてもいいはずなんですが。

泉谷:連絡帳を手書きで書くとか、壁の飾りを作るとか、そういう業務も保育士でなくてもいいんじゃないかと思うんです。連絡帳など、電子化すればいいのは分かっているのに、現場の余裕がなさ過ぎて導入が難しいとも聞きます。無資格の人であっても、全体の業務改善を進める人員ならば、数に入れてもいいんじゃないかと思います。

「『保育の質』が問われないのは寂しい」

井上竜:「保育の質」(※)といってもいろんな質がある。東大の秋田喜代美教授が国際経済協力機構(OECD)のまとめを紹介していますが、今の保育士や面積基準の議論は主に「構造の質」だと思うんですよね。生きるか死ぬか。命に関わる部分はいちばん大事だけど、議論がそこに終始しちゃってる。僕たちの大事な子どもが、心身ともに健やかに育ってほしいと願って保育園を見学します。ところが実際に入れる段階になると「とにかく構造の質だけ守ってほしい」となってしまっているのがすごく寂しい。

ICTの話も、保育士がお子さんをみるという本来の仕事に専念できるようにするためという意味では「構造の質」の一部なのかも知れないけど、保育環境をめぐる「過程の質」かもしれない。その議論が整理もされずごっちゃになって「保育の質」という一つの言葉だけで語られているのが現状なんですよね。行政や事業者さんはどう切り分けて、どう思っておられるのか。そこをうかがいたくて今日は来たんです。生きるか死ぬかは、最低限じゃないですか。

※OECD(経済協力開発機構)などは、構造、過程、成果といった分類で、子どもとの触れあいや遊具など育児環境も含めた総合的な質の向上を訴える。日本での「保育の質」を巡る議論は、保育スペースの基準や保育士の配置基準など保育インフラに関わる「構造の質」に偏っていると研究者らが指摘している。

泉谷:正直なところ、今は入れればどこでもいいという心境になってしまいます……。

井上竜:あかん、それ言ったら。

泉谷:贅沢は言えないなという気分で。

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