保育園、親のホンネは中身だって重視したい 「質の高い保育」は、どうすれば実現できるか
井上正:私もシンガポールに1年住んでいました。ホーカーズ(屋台)が安くておいしいので、シンガポール人は朝ご飯作らないで外食する人も多いですよね。
泉谷:これは極端な例ですが、私の元同僚のシンガポール人女性は、子どもがいるのに洗濯機の回し方を知らなかった。人身売買のようなことや住み込みなので虐待など問題もいろいろあるんですけど、家政婦それ自体は助かるなあと思っていました。100%日本に輸入すればいいわけではないですが、学んで取り入れてもいい部分があると思っています。
問われている保育文化
――まさに日本の保育文化が問われているんだと思います。最後に、保育の質の向上を実現するために、何が必要だと思いますか?
井上正:まず厚生労働省が保育の質をきちんと整理できているのか。厚労省はよく保育士の有効求人倍率の話をしますが、現場で保育士の長時間労働の問題があり、どういう疲弊が起きているのかをどこまで理解いただけているのか。我々事業者が自治体から保育所を造るご相談をうけても検討段階であきらめざるを得なくなっている現状を、伝える義務がある。我々は決して質を下げてまで量を拡大しようと思っていませんし、質は絶対守りつつ保育所を増やしていきたい。ではきちんとした質って何だろう。高めるためにどうすればいいのか。
やっぱり保育所というのは人で、AIの時代になっても保育士はなくならない仕事の筆頭と言われています。一人一人の保育士をどう育てていけばいいのか、保育の環境をどう整備していけばいいのか、地域の交流をどうすればいいのか。一つ一つきちんと高めていきたいと思います。
後藤:いちばん大きい課題はやはり、待機児童を解消しなければいけない。合わせて保育の質も、両輪で引き続き頑張っていきたいと思っています。「質って何?」というはっきりした打ち出し方とか、いちばん待機児童が多い自治体だからこそわかる課題もあると思っていますので、国や東京都に積極的に発信していくのも大事な役割と思っています。
泉谷:私の立場からは、質で選べるようなレベルまでまず量を増やしてほしいということですね。質は問わずに入れればいい、というのは本来おかしいと思うんで、選ぶ余地を与えて欲しいと思います。
井上竜:私は「希望するみんなが保育所に入れる社会をめざす会」ですので、量を増やせと言っている人みたいに見られるんですけど、やっぱり大事な子どもを預けるところはちゃんとした所に預けたいと思っている。幼児教育の無償化に8000億円、待機児童対策に3000億円が投じられますが、3000億は建物の予算だけで質の話がスポッと抜け落ちている。箱だけ増やしてほしいなんて私たちは思っていない。
規制改革委員会だけでも、自治体だけでできることでもないでしょう。今は事業者に質の部分が全部、最後に押しつけられている気もしているんですけど、当事者も入れて議論してほしい。保育士や事業者の生の声を反映して議論しながら、みんながある程度納得出来る枠組みをつくってほしいと思います。
泉谷:お父さんとしては?
井上竜:それぞれ自分たちの考えがあるから、選択できる状況になってほしい。少なくとも自分の子どもが親になる頃には、「自分はこういう保育所、保育士に預けたい」という選び方ができるようになってほしい。うちの子は待機児童という問題にひっかからないようにと願っています。
(文:吉野太一郎、泉谷由梨子)
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