「ゾンビ施設」増殖で地方は大変なことになる 学校だけでも年間500校も廃校になっている

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結果、公共不動産の中には、築30年近いのに一度も大規模修繕をやっていなかったり、エアコンなどの設備を交換していない建物や、雨が降る度に漏水する建物が当たり前のようにある。RC造で漏水した場合、部分的に対処するなどその場しのぎが多い。長年の漏水は躯体の劣化を加速するが、役所はそれもお構いなし。長期修繕計画がないということは長期的に全体を見る視点がないということなのである。

それでも、RC造なら築20年くらいまでは何をしなくても持つ。問題は30年近くになってから。躯体内の給排水など見えない部分の劣化が進み、適切に維持されていた以上の費用がかかるようになってくるのである。

修繕費が公共サービス悪化を招く可能性

別の問題も指摘されている。「修繕の優先順位がないため、築40年ぐらいに多額をかけて配管を更新し、それから10年後に建て替え、あるいは取り壊しといった無駄をすることもあり得る」と、静岡県熱海市で公園の指定管理者を務めた経験のある、元マンション管理会社勤務の三好明氏は話す。

建物を適切に維持管理するためには長期修繕計画はもちろん、それを適宜更新するために修繕の専門家と、現場の変化を敏感に見抜く管理者が必要だというが、多くの自治体にはそのどちらもいないという。

「建物の修繕と聞くと目に見える建築部分と考える人がいますが、実際には電気、給排水、消防施設などと多岐にわたっており、それぞれに専門家が必要。東京都や横浜市のように大きな自治体なら専門家集団がいるでしょうが、小規模な自治体ではまず無理。公共施設の維持・管理、支出にも自治体差が出てくるでしょうね」(三好氏)

そもそも、人口が少ない自治体ほど将来の公共施設更新の負担は重くなる。総務省が2011年に行った調査では人口25万人以上の街での1人当たり将来公共施設更新の負担は2万1000円ほどだが、人口が減るにつれて増え、人口3万~5万人になると4万5000円強となる。そこに見えない無駄が積み重なっていくとしたら、どれだけ不利か。公共施設の維持管理や使い方が自治体財政を圧迫し、サービスの低下となって住む人に影響する将来はすぐそこまで迫っているのである。

中川 寛子 東京情報堂代表

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なかがわ ひろこ / Hiroko Nakagawa

住まいと街の解説者。(株)東京情報堂代表取締役。オールアバウト「住みやすい街選び(首都圏)」ガイド。30年以上不動産を中心にした編集業務に携わり、近年は地盤、行政サービスその他街の住み心地をテーマにした取材、原稿が多い。主な著書に『「この街」に住んではいけない!』(マガジンハウス)、『解決!空き家問題』(ちくま新書)など。日本地理学会、日本地形学連合、東京スリバチ学会各会員。

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