イスラエルとアラブ諸国の埋まらない食の溝 ひよこ豆の伝統料理をめぐって苛烈な舌戦

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フムスはアラブ発祥だと主張するレバノンは、イスラエル側に記録が塗り替えられたことを受けて、その後すぐにギネスの座奪回に着手するなど、その巨大さでしのぎを削る競争が続いてきた。また、過去の歴史書や聖書、さらには13世紀の料理本までをも引用して、フムスがいつの時代からどこで食されてきたのか、識者を巻き込みその起源を解明しようと双方が異なる主張を繰り広げてきている。

ちなみに、筆者のガザ地区に住むパレスチナ人の友人夫妻に、今回のフムス騒動についての見解を聞いたところ、「フムスはパレスチナの、つまりアラブの料理です」と返ってきた。パレスチナとイスラエルの友好を願い、和平を進めるために国際機関で働く彼でさえ、“フムス発祥の地”に強いこだわりがあるようで、たかがフムス、されどフムス――この問題の根深さが垣間見える。

フムスを和平実現への動きにも

そんななか、“救いの光”も見える。フムスを政争の具にするのではなく、平和的に活用しようではないか、という動きもあるのだ。イスラエルでフムスを提供するレストランのユダヤ人オーナーは、ユダヤ人とアラブ人が同じテーブルに座った場合、料金を半額にするというユニークなキャンペーンを行った。

オーナーは、「私たちにとっては、アラブ人もユダヤ人も関係ありません。同じ“人間”です。あなたがアラブ人、ユダヤ人、キリスト教徒、その他どんな人種でも、フムス料理のおかわりが無料です。さらに特別に、ユダヤ人とアラブ人が一緒に座っているテーブルでは、フムス料理が半額になります!」と、レストランのFacebookページ上に投稿し、中東のメディアだけでなく、アメリカCNNやフランスAFP通信なども大きく報じた。

その動きは中東のみならず、去年9月には南米アルゼンチンの首都、ブエノスアイレスでは現地に住むユダヤ人とイスラム教徒などが一堂に会して、あるイベントが開かれた。その名も「第1回“フムス”ワールドチャンピオンシップ」。約300人が参加し、「戦争ではなく、フムスを作ろう」や「“紛争”を輸入する代わりに、われわれは“共存”を輸出しよう」などをスローガンに、おいしいフムスレシピの腕前を競った。

結果、イスラム教徒の主婦が作るフムスが優勝したが、コンテストの趣旨はあくまで“競争”ではなく、“共存”。つまり、宗教関係なく、1つの場所に集まり、その起源を争うことなくおいしくフムスをいただくというのが目的だ。同じようなイベントはワシントンでも行われており、「フムスを広めよう、ヘイトではなく」をスローガンに、やはりユダヤ教徒とイスラム教徒が集ってピタパンやフムスが振る舞われた。

年の瀬のホリデーディナーのツイートをきっかけに、すっかり(その起源をめぐる)民族間論争に火がついてしまったひよこ豆のペースト、フムス。世界中で多様な民族から愛される、スパイシーで滑らかなその伝統料理が中東和平のささやかなシンボルになる日が訪れるのか。

海野 麻実 記者、映像ディレクター

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うんの あさみ / Asami Unno

東京都出身。2003年慶應義塾大学卒、国際ジャーナリズム専攻。”ニュースの国際流通の規定要因分析”等を手掛ける。卒業後、民放テレビ局入社。報道局社会部記者を経たのち、報道情報番組などでディレクターを務める。福島第一原発作業員を長期取材した、FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品『1F作業員~福島第一原発を追った900日』を制作。退社後は、東洋経済オンラインやYahoo!Japan、Forbesなどの他、NHK Worldなど複数の媒体で、執筆、動画制作を行う。取材テーマは、主に国際情勢を中心に、難民・移民政策、テロ対策、民族・宗教問題、エネルギー関連など。現在は東南アジアを拠点に海外でルポ取材を続け、撮影、編集まで手掛ける。取材や旅行で訪れた国はヨーロッパ、中東、アフリカ、南米など約40カ国。

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