部下に丸投げ、「時短ハラスメント」が蔓延中 中身なき「働き方改革」が横行している

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一方で、人事考課、成績評価、営業数字の目標は従前どおり変わらないというご都合主義ではどうしようもありません。「労働時間を減らせ!」と言いつつ、数字が未達だった場合の責任は部下が負うとなれば、やる気を失ってしまうのは当然でしょう。

また、仮に頑張って時間を減らしつつ、掲げられた目標値を達成したとしても、評価が従前どおりである場合、マイナス評価にはならないものの、プラス評価にもならないのでは同じことです。これでは働くモチベーションが湧くわけがありません。そのため、労働時間削減策を実施するのであれば、人事考課の方法もまた従来の「時間×数字」の評価から別の評価軸へ変えるべき場合が多く見られます。

ホワイトカラーにおける生産性とは?

また、労働時間を減らすという議論には、よく「生産性向上」という言葉がセットで出てきます。労働時間を減らす分、効率よく働こうという意味だとは思いますが、よくよく考えてみると「生産性」とは何でしょうか?

もともと「生産性」という言葉は工場における稼働効率として、「1時間当たり製品を何個生産できるか」という議論で使われていました。工場労働者の場合はイメージしやすいのですが、ホワイトカラーにおいて、効率よく仕事をやるとはどのようなことなのでしょうか。「生産性を上げろ!」と言いつつ、具体的な方法を聞くと「まぁ……頑張れ」という上司もいるでしょう。この点は、単なる精神論ではなく分析的に考える必要があります(この詳細は次回)。

さらに、管理職は部下の残業申請の承認をすることが多いですが、何も確認せず「すべて承認」としている方はいませんか? 労働時間を減らすのであれば、まずは無駄な残業を減らすことが重要であり、そのためには「何のために残っていたのか」「残業せずに終わらせるにはどうしたら良いか」を部下と一緒に考える必要があります。つまり、管理職が管理する対象には、「労働時間」も含まれることを再認識することが欠かせないのです。

また、「労働時間を削減しろ」と言う割には業務効率化のためのITへの投資を惜しむケースなどが見られます。これはAIやビッグデータなど最新テクノロジーを導入するべきといったことではありません。いまだにWindows2000を使っていたり、書類も手書きで、バラバラのファイルに保存されており検索性に乏しいなど、データ化、PCやソフトウエアの充実、ネット環境などインフラの整備により改善できるレベルの話です。なすべきことがあるにもかかわらず、それをしないで社員にだけ「生産性を上げろ」と言われても……というところです。

いかがでしたでしょうか。ご自身が勤められている会社の事例に、近いケースはありませんでしたか? 「働き方改革」は各企業においてますます必要になってきますが、そのしわ寄せだけが社員に行くことのないようにしなければなりません。

働き方改革を行えば、実労働時間が減るわけですから、労働者としては手取りが減ることになります。実際、日本の雇用慣行において「残業代」が占める割合はかなりの量です。2017年11月29日のロイター通信の記事によれば、「働き方改革」によって企業が雇用者に支払う残業代が年間4兆~5兆円減少するとのことです。また、みずほ銀行チーフマーケット・エコノミスト唐鎌大輔氏の分析によると、日本の残業代の総量は15兆円に上るという試算も出ています(みずほマーケットトピック 2017年12月1日)。

15兆円といえば消費税の税収にほぼ匹敵する相当な額になるわけで、これが影響を受けようとしているのですから労働者に与えるインパクトは絶大なものがあるでしょう。現に「働き方改革で残業代を減らすな」と労働組合から団体交渉を申し入れられている企業もあります。働き方改革は、企業側としては推し進めたいところですが、労働者からすれば、「何のためにやらされているのか。手取り収入も減るし、やる気が起きない」となるのも必然でしょう。

本当の意味で改革を行い、社員のモチベーションを引き出して成果も上げるためにはどうしたらよいでしょうか。次回は「生産性」について掘り下げたいと思います。

倉重 公太朗 倉重・近衛・森田法律事務所 代表弁護士

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くらしげ こうたろう / Kotaro Kurashige

慶應義塾大学経済学部卒。第一東京弁護士会労働法制委員会 外国法部会副部会長。日本人材マネジメント協会(JSHRM)執行役員。日本CSR普及協会雇用労働専門委員。労働審判・仮処分・労働訴訟の係争案件対応、団体交渉(組合・労働委員会対応)、労災対応(行政・被災者対応)を得意分野とする。企業内セミナー、経営者向けセミナー、社会保険労務士向けセミナーを多数開催。著作は20冊を超えるが、代表作は『企業労働法実務入門』(日本リーダーズ協会 編集代表)、『なぜ景気が回復しても給料は上がらないのか(労働調査会 著者代表)。

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