遠藤保仁が「ルーティン」をもたない深い理由 「今、この瞬間」に集中するための思考
たとえば、試合前のストレッチのルーティンが決まっていて、毎回、30分かけてメニューをこなしている選手がいるとしましょう。ところが、道路が渋滞していて、会場到着が試合開始の10分前になってしまったらどうでしょうか。実際、海外の試合では、さまざまな事情で、予定どおりの時間にスタジアムに到着できないことは少なくありませんからね。
試合まで10分しか残されていない状況になれば、当然、30分のストレッチをこなすことは不可能です。このとき、ルーティンをこなさないと気がすまない選手は、不安な精神状態に置かれるはず。表面上は平常心を保っているように見えても、「今日はルーティンができなかった。ベストのパフォーマンスができるだろうか……」という思いが、心の片隅に残るのではないでしょうか。
サッカーはメンタルの状態でプレーの出来が大きく左右されます。そのため「大丈夫だろうか……」と自信のないまま試合に入ってしまえば、消極的なプレーしかできず、低パフォーマンスやミスにつながりやすいのです。
一方、ルーティンをもっていなければ、どんな状況でも一定のメンタルで試合に入ることが可能となります。試合開始の10分前にスタジアムに到着しても、その時間内でできるかぎりのストレッチをし、最善の準備を淡々とこなすだけですからね。
もちろん、僕はルーティンを否定しているわけではありません。イチロー選手、ラグビーの五郎丸選手、長谷部選手のように、ルーティンをもっていることでベストパフォーマンスを発揮できる一流選手も実際にいます。
だからスポーツ選手に限らず、ビジネスパーソンの方でも、ベストパフォーマンスを出すためにルーティンが必要なのであれば、こだわっていいと思います。ただし、ベストパフォーマンスをルーティンが支えるような関係になると、ルーティンが崩れたときはパフォーマンスが低下してしまう可能性が出てくるように思います。
そのため、ルーティンに縛られるくらいなら、あえてもたないのも、ひとつの選択肢であるというのが僕の考え方です。そのほうが、今、この瞬間に集中・専念できるはずだからです。
遠藤流「冷静さを保つ」極意
そのときの状況に合わせて、シンプルに考えるのが僕のやり方です。そうすると、周囲の影響を受けてパフォーマンスの質が低下することはそうそうありません。どんな状況にあっても、いつもの自分でいる感覚を大事にするということでしょうか。
これまで僕が積み重ねてきた経験でいえば、ふだんの練習どおりにプレーをすることが、最もいいパフォーマンスにつながります。
もちろん、サッカーは勝負事なので、どんな試合でも「絶対に負けない」という強い気持ちで臨んでいます。「遠藤は試合中に飄々(ひょうひょう)としているな」といわれますが、それは僕がただ感情を表に出さない性格というだけで、いつだって「負けたくない」と思っているのが本当のところです。
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