中後悠平「戦力外」から米国で甦った男の決断

3Aに昇格、日本プロ野球への復帰はあるのか

以前なら越えられなかった壁を越えた(撮影:風間 仁一郎)

その中後がイメージする、メジャー屈指の大投手がいる。今季メジャー最高年俸40億円を誇るクレイトン・カーショウ(ロサンゼルス・ドジャース)だ。カーショウといえば、メジャー史上最高とも言われるカーブが代名詞だが、真骨頂は他にあると中後は語る。

「あのピッチャーの凄いところは、絶対的なカーブ以外にちっちゃいスライダーを持っているんですよ。その球でカウント取ったりゴロ打たせたりして、あのカーブで空振り三振を奪う。他にも好投手と呼ばれる人はみんな絶対的な武器、プラス2〜3球を持っているんですよね。僕のなかでもスライダーはなくてはならない武器だけど、それだけでは打たれてしまいますから。

ロッテの時に今の考え方ができてたらピッチングの幅が広がって、もっと違うスタイルが見つかっていたかなと思うけど、あの5月9日の試合で自分のコツをつかんで抑えられたというのは、今年一番の収穫ですよね」。

中後は少しだけ誇らしげにそう胸を張った。

実は中後には、今年もう1つの大きな転機があった。

それはプライベートでの出来事。8月14日、敵地アラバマ州モンゴメリーでの試合前のことだった。

「出産予定日は8月20日ぐらいだったんですけど『産まれそう』って連絡がきて。僕もやっぱりソワソワするじゃないですか。試合中は普段ロッカーに帰ったりしないんですけど、30分おきぐらいに帰って、トイレ行くフリしてスマホ覗いて。で、試合終わって戻ったら動画と『産まれたよ!』っていうLINEが入ってたんで、ホンマめっちゃ嬉しかったですね。でも(立ち会えなくて)申し訳ないな、みたいなのもありましたけどね」

出産に立ち会うべきか否か迷った末の決断

渡米1年目を終えたばかりの昨オフ、中後と光との間に新たな命が宿っていた。1年目は生まれたばかりの第一子を残してアメリカで戦った中後だったが、今シーズンは第二子誕生という一大イベントを背負いながら、一家の大黒柱として懸命にアメリカで戦っていたのだ。

欧米は仕事よりも家族を優先にする慣習がある。メジャーリーガーや監督ですら、シーズン途中でも出産休暇でチームを離れることが当たり前だったりする。実際、チームのコーチも2週間前に出産休暇でチームを離脱していた。中後に対しても「家族のために帰るならウチは全然いいよ」と帰国許可は出ていた。日本で戦力外になってからも、ずっと支え続けてくれている妻・光の出産に立ち会うべきか、中後は直前まで迷いに迷っていた。

支えてくれる家族のためにも負けられない

そんな中後の迷いを断ち切ったのは、他でもない妻の国際電話でのひと言だった。

「そちらでしっかりやってきて。帰ってきてからしっかり抱っこしてあげて…」

妻のけなげな言葉に、ハッと気づかされた。

目の前の試合を抑えることが、今の自分が為すべきこと。

「僕は野球でゼロに抑えることがおカネになってくるし、僕の選手生命にも関わってくる。上にあがるためにはゼロに抑える。子供を育てるためにもゼロに抑える。稼ぐためにもゼロに抑える。家族を幸せにするためにもゼロに抑える。自分の家を建てるためにもゼロに抑える。野球でゼロに抑えることが、結果を残して上にあがっていくことが、僕の全てなんです。僕1人だろうが家族が4人に増えようが、やることは変わらない…それを強く感じたんです」

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