政権交代の法則─派閥の正体とその変遷 草野厚著 ~政治と行政の透明性確保で衆参ねじれを積極評価
かつて、「砂防(会館)」が「目白(御殿)」とともに権力の中心であり、「箱弁当」がその団結力の強さを表す象徴であるという時代があった。もちろん、これは田中派・木曜クラブの全盛期のことである。
現在の自民党の各派閥に当時の田中派のような勢いはないが、それでも「派閥」は日本の政治を理解するうえでの原単位であり続けている。本書は、派閥を分析単位として、自民党政治のこれまでを振り返り、今後を展望した、興味深い日本政治のテキストである。
著者によれば、派閥は将来の総裁候補を見出し、育成する場であるとともに、新人議員に「政治家としてのイロハ」を教える教育機関でもあるということになる。
自民党は、このような派閥の連合体であり、政権を失いかねない危機に直面すると、派閥間で「擬似政権交代」を行うことによって危機を乗り越えてきた。小選挙区制の導入後も、自民党政治において派閥が果たしている役割は基本的に変わらない。
派閥という視点を離れて、少し遠くから現在の永田町を眺めると、そこには「衆参ねじれ国会」という現実が広がっている。ねじれ国会については、政策の停滞や混乱などのデメリットを指摘する向きが多いが、著者はねじれ国会にむしろ積極的な評価を与えている。これまでの政策運営においては十分な配慮がなされてこなかった、政治と行政の透明性が、ねじれ国会のもとで、国会審議を通じて確保されるようになったからだ。
相次ぐ首相の辞任を経て近く総選挙が行われ、永田町は新たなフェイズに移行する。政権交代が現実の可能性のひとつとして認識され、政界再編への注目が集まる中、本書はねじれ国会の先にあるものを見通すうえでも有益な一冊といえる。
くさの・あつし
慶應義塾大学総合政策学部教授。1947年生まれ。慶應義塾大学法学部卒業後、松下電器貿易を経て、上智大学大学院外国語学研究科修士課程、東京大学大学院社会学研究科博士課程修了。社会学博士。国際大学、東京工業大学等を経る。『日米オレンジ交渉』で日米友好基金賞。
角川ONEテーマ21 740円 225ページ
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