ミュラー氏による捜査が幕引きへ向かうワケ カギは米国憲法で確定された大統領権限

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大きな組織の司法官僚として出世してきたミュラー氏には、政府から独立した公的組織のコンプライアンスを一から作った実務経験がないのではないか。

「中立性」に欠け、かつコンプライアンス不足のミュラー氏は、上記のFBI捜査官を雇用した「全責任」を、「コンプライアンス法理」として負うことになる。いまさら、ダメージコントロールをしても、ミュラー氏が特別検察官であるかぎり、彼の組織の信頼性は回復しない。そういうコンプライアンス実務の真実を、ミュラー氏は、いまさらながら味わっているのではないか。

あらゆる行政権は大統領に確定的に帰属

前述したダーショウィッツ名誉教授が明晰に指摘した米国憲法第2章を改めておさらいしておこう、その第1条には、原文で、こう記されている。

The executive power shall be vested in a President of the United States of America.

和訳は、「国の行政権は、アメリカ合衆国の大統領に確定的に帰属するものとする」。

「be vested in~(確定的に帰属して)」というフレーズが、決定的に重要である。つまり、あらゆる行政権は大統領に確定的に帰属しているのである。それが、米国憲法の神髄であり、賢明なるミュラー氏は、このことを、心底、気がついているはずだ、と筆者は信じている。

そんな確信を持てるのも、ウォール街やワシントンDCなどで深く尊敬され、とてつもなく優秀かつ人格的にすばらしい人物たちと親しく交流するチャンスに恵まれてきたからだ。特に、「ウォ―ターゲート事件」で、全米に「高潔の士(a person of integrity)」として知られたエリオット・リチャードソン元司法・国防・商務・厚生長官と、公私ともに長年にわたり、親しく仕事をすることができた経験は、何物にも代えがたい宝物である。

リチャードソン氏の高邁(こうまい)さ、高潔さを思うと、そういう賢人を見習って、ミュラー氏もトランプ大統領に「確定している」憲法上の権限を尊重し、トランプ氏への復讐戦というコンセプトから解放され、「反トランプ」メディアにあおられず、同時に、これまで費やした捜査コストを最小限に抑えるためにも、まず、トランプ大統領をターゲットから正式に完全除外し、誰の目にも感情的な印象を与え続けている、ミュラー氏の捜査を早期に幕引きすることが賢明だろう。

湯浅 卓 米国弁護士

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ゆあさ たかし / Takashi Yuasa

米国弁護士(ニューヨーク州、ワシントンD.C.)の資格を持つ。東大法学部卒業後、UCLA、コロンビア、ハーバードの各ロースクールに学ぶ。ロックフェラーセンターの三菱地所への売却案件(1989年)では、ロックフェラーグループのアドバイザーの中軸として活躍した。映画評論家、学術分野での寄付普及などでも活躍。桃山学院大学客員教授。

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