「見た目外国人」の日本人親子を苦しめる誤解 日本人は「単一民族」だというのは幻想だ

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こうした習い事は、喧嘩に決着をつけるのに役立った。いじめっ子を組み敷き、「僕は『ガイジン』じゃない! 友だちになるか死ぬのかどっちだ?」と叫んだこともある。いじめっ子は賢明にも前者を選んだ。

3年生の時、ベッシャーは神戸の公共バスに乗り、運転手に日本の普通のあいさつをした。運転手は少年の日本人とは違う外見と振る舞いにびっくりしてこう言った。「日本語ペラペラじゃないか。かわいいね」。

いくつか停留所を過ぎた後、おそらく10代の、日本人に見える女の子が乗ってきて、小銭を探すのにモタモタしていた。その子は日本語がほとんど話せなかった。運転手はいら立ち、女の子を侮辱して大声で言った。「日本語もろくに話せないのか?お前は朝鮮人か、中国人か?」。彼女は泣き出してしまった。バスの乗客は一言も発さなかった。

ベッシャーは恥ずかしくなり、腹を立てた。この出来事から彼は、人は自分たちと違う外見や、振る舞いを見せる人と会うと居心地悪く感じることがあるのだと思った。ベッシャーが自分で調べたところによると、神戸に住む人の約3分の1は韓国・朝鮮系、あるいは中国人の子孫だそうだ。

「ガイジン」と呼ばれて泣きながら帰ると

ベッシャーが「ガイジン」と呼ばれ腹を立てて町や学校から戻ると、お手伝いさんだった平田ちよがなぐさめてくれた。「そんな人たち気にしちゃだめですよ。あの人たちは何を言ってるのかもわかってないんですからね。坊ちゃんはあの人たちよりずっと日本人ですよ。私より日本人なくらいですよ」。

平田は幼いベッシャーに日本社会の目に見えにくい多様性を示してくれた人だった。彼女は長崎県の五島列島出身だった。休みで帰省するとき彼女は「国に帰ります」と言っていた。また、新しく知り合いになった人には「お国はどこですか」と聞いていた。それはその人が日本列島のどこから来たのかと尋ねるごく普通の言い方だった。

平田は「国」という言い方は明治以前の藩制の名残だと教えてくれた。その頃、旅人は自分の藩を「国」と呼んだのだ。各藩はそれぞれの支配者、文化、信条、忠誠心、言葉あるいは方言を持っていた。

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