たった1通のメールが持つ訴訟リスクの現実 世界の司法の現場はデジタル化が進んでいる

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リーガルテックの老舗企業であるカタリストが開発したソフトウエアを使うと、100万件規模の膨大な資料のランク付け作業が5分以内に終わります。また、全体の12%をレビューした段階で、関連性の高い文書80%を抽出することができます。

企業のグローバル化に必要不可欠なリーガルテック

そして、よく言われることではありますが、アメリカで起きていることは、数年後、日本でも起きます。とくに、司法の現場で起きていることは、アメリカが先行していることもあって、今のアメリカが、数年後の日本の姿になることは間違いありません。

日本企業のグローバル化に伴い、海外の消費者に日本企業が訴えられるケースもよくあります。2009~2010年にトヨタ自動車が「アクセルペダルの戻りが悪い」とアメリカで集団訴訟を起こされたことがありました。裁判はトヨタが和解金を支払うことで決着しましたが、訴訟費用を含めると30億ドル(約3000億円)以上かかったといわれています。この問題は、後日、急加速による事故のほとんどは個人的な運転操作のミスだったことがわかっています。日本では考えられない訴訟です。

現段階では、日本企業は国際訴訟に慣れていない企業が多く、紙の書類をデジタル化する費用までかかることもあります。開発されているソフトウエアの仕様が英語対応のものが多いため、無駄な作業が増えるケースもあります。そこを人手に頼ると、やはりコストがかかってしまいます。

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日本企業が多額の賠償金を支払っても和解に応じるケースがあるといわれるのは、こうした訴訟費用の問題が絡んでいることもあるといいます。また、証拠の取り扱いが適切でなかったため、証拠隠滅を指摘され、極めて不利な和解に追い込まれることも多いのです。

国際カルテルや特許を巡る訴訟に日本企業が巻き込まれるケースも増えてきています。ビジネスのグローバル化のなかにいる日本企業にとって、海外のライバル企業との国際訴訟は避けて通れない時代なのです。そして、日本企業の動向に目を光らせる海外の司法機関との戦いも避けることはできません。

ビジネスのグローバル化、IoTで世界とつながる社会に生きる私たちは、知らないでは済まされない未来がすぐそこにあるのです。それは、リーガルテックとは切り離せない社会でもあります。

佐々木 隆仁 AOSリーガルテック代表取締役

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ささき たかまさ / Takamasa Sasaki

1964年、東京都生まれ。1989年早稲田大学理工学部卒。大手コンピューターメーカーに入社し、OSの開発に従事したのち、1995年に起業。AOSテクノロジー社を立ち上げ、リーガルテクノロジーを中心とした事業を推進。2012年にAOSリーガルテック株式会社を設立し、代表取締役に就任。著書に『デジタルデータは消えない』(幻冬舎ルネッサンス新書)、『30分で理解!イラストでわかるマイナンバーQ&A30』(日経BP社)などがある。

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