日本の「サイバー攻撃対策」に募る大きな不安 イスラエル発イベントが東京で開かれた意味

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「日本政府としてもサイバーセキュリティ対策向上のために、イスラエルとのサイバーセキュリティ分野での覚書締結等を実施していますが、実情は政府レベルの付き合いにとどまっていて、民間での連携はこれからという感じ。税制優遇する等のインセンティブが必要ではないでしょうか。まずは、政府主導で日本全体のサイバーセキュリティの感度を高めていく必要があると思います」

すでに先陣を切っている中国の存在

一方で、ここ最近存在感を強めているのが、中国だ。早くからイスラエルに目を付けたシリコンバレーの大手企業と同様に、イスラエルと中国双方の投資は、数年前から熱を帯びている。電子商取引最大手のアリババ集団がイスラエルのベンチャーキャピタルなどに相次いで投資したり、インターネット検索大手のバイドゥなどがイスラエルにおける研究開発拠点の開設へ本腰を入れ始めたりしている。

中国家電大手のハイアールは、2010年の時点から中国本土で高品質の飲料水や浄水器を販売するイスラエルメーカーと合弁企業を設立。今年10月には、初の「イノベーション・ハブ」をテルアビブに設立し、両国のメディアでも大きく取り上げられた。家電など身の回りのあらゆるものをネットにつないで遠隔操作などを可能にするIoTなどに対応した製品の開発に、イスラエルのアイデアや技術を活用していく方針だ。

ハイアールの担当者はイスラエルの地元紙の取材に対し、鼻息荒くこう語っている。「われわれはこれまで5年間にもわたって、イスラエルのイノベーションと共に歩んできた。そして今、イスラエルのエコシステムにおいて、さらに密に関わっていくことを決定した。これは長期的な視点で見た重要な投資だ」

ほかにも、イスラエルの運転支援ベンチャー「モービルアイ」は、中国のテンセントやバイドゥが出資する電気自動車スタートアップと提携して中国進出を加速させるなど、中国企業によるイスラエルへの投資は枚挙にいとまがない。

あるイスラエルの起業家は「アメリカや中国と比べると日本企業がイスラエルに進出するのは数年遅れている。中国はすでにイスラエルにある種の地盤を築いていると言っても過言ではないだろう。だがわれわれは、製造業に強く技術力も世界一と信じる日本とのコラボをこれから楽しみにしている」と日本への期待を寄せる。

イスラエルの大規模なサイバーセキュリティの祭典が、今回日本で開催された意味。それは、2020年の東京オリンピックに向けた急務の対策の必要性もさることながら、北朝鮮情勢など脅威が高まっていると言われるアジア全体へのサイバー攻撃の危機に、日本政府が本格的に立ち向かう意欲を示し始めたことが最大の要因だろう。

政府は、AIでサイバー攻撃を検知するなどの研究開発の推進や、高度な技術を持ち合わせた若手セキュリティ人材の育成などにようやく本腰を入れ始めている。

アメリカや中国などが先陣を切って“地ならし”をしてきたイスラエルの地で、日本政府が今後、企業や大学などと連携して、いかにこの迫りくる課題にスピーディに対応していくのか――虎視眈々と日々攻撃を仕掛けるハッカー側の視線は強まることこそあれ、弱まることはない。

海野 麻実 記者、映像ディレクター

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うんの あさみ / Asami Unno

東京都出身。2003年慶應義塾大学卒、国際ジャーナリズム専攻。”ニュースの国際流通の規定要因分析”等を手掛ける。卒業後、民放テレビ局入社。報道局社会部記者を経たのち、報道情報番組などでディレクターを務める。福島第一原発作業員を長期取材した、FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品『1F作業員~福島第一原発を追った900日』を制作。退社後は、東洋経済オンラインやYahoo!Japan、Forbesなどの他、NHK Worldなど複数の媒体で、執筆、動画制作を行う。取材テーマは、主に国際情勢を中心に、難民・移民政策、テロ対策、民族・宗教問題、エネルギー関連など。現在は東南アジアを拠点に海外でルポ取材を続け、撮影、編集まで手掛ける。取材や旅行で訪れた国はヨーロッパ、中東、アフリカ、南米など約40カ国。

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