千尋の谷へ突き落としてこそ、子は成長する

厳しくない愛は、愛ではない

人間のわが子への愛情は、動物以下?

「……千尋の谷に落とす」ことわざは、生まれた子供を谷に落として、はい上がって来た元気な、健康的に見込みのある子供だけを育てる、という意味だそうですが、一般には、この親離れ子離れの厳しい親の愛情を指して使われる場合が多いようです。

しかし多くの人にとっては自分で「狩り」ができなくとも生きていける、ヒト亜科ヒト属の世界はどうでしょう。絶えない育児拒否や虐待、子殺し、そして大人の無責任で子供を不幸な環境に追いやる引きも切らない例は、ヒト属は哺乳類ではかなり最低の部類であることを示しています。千尋の谷に落とすほどの強い愛情に関するニュースのほうが、格段に少ないです。

せめて“他人に迷惑をかけない”子供に育てる

この学生さんは、親の教えを守るあまり、人の目を気にしすぎたり、他人に必要以上に優しく接してしまうと言っておられます。ご両親の「本当に強い人は優しい」という言葉の中には、「本当に優しい人は強い」という意味も含まれているでしょうし、優しいのはいくら優しくてもいいと思います。

本当の愛情は突き放すことも必要だと感じておられるので、実はご両親の望まれたとおりの若者に成長されたとお見受けしました。他人の目を気にしすぎるのはよくありませんが、ある程度、気にかけるのはマナーですし、場合によっては突き放すほどの厳しさをもった優しさを表現されるのは、年齢からいっても、これからが本番ですよ。

「他人に迷惑をかけてはいけない」と子供に教えることも、私は言わずとも当然、わかっているだろうという解釈で、あえて言葉にはしませんでした。近年、横行する若者の小さなマナー違反からとんでもない大きな事件を見る限り、この学生さんのように幼児より肝に銘ずるよう、言葉で伝えるほうが断然正しい教育だと、親業を反省しています。他人に迷惑はかけていないだろうと信じてはいますが。

先頃、亡くなられた新藤兼人監督は幼少時に実家が倒産して、その蔵に母親と住まわせてもらって育ったそうです。蔵の中で母親は「(警察官の)兄に迷惑かけてはいけないよ」と何度も末っ子の兼人君を添い寝しながら繰り返されたそうです。暗い暗い蔵の中で何度も言い聞かされた母親のその言葉を、生涯忘れたことはないと言っておられました。社会を見る目がとても厳しく、人に優しい映画を撮り続けた人でした。

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