エルサレム首都宣言でも「物言わぬ」日本外交 安倍政権の「普遍的価値」は看板倒れ

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米国に対する日本の外交姿勢は冷戦中を含めしばしば「対米追随」と揶揄されてきた。1970年代には中国の国連加盟反対などで最後まで米国と歩調を合わせた。そのため各国からは、米国の対応を見れば日本がどうするかわかるとさえ言われてきた。しかし、貿易摩擦問題などでは米国と正面衝突してきた歴史もある。またアジアを中心に時に米国と対立しつつも日本独自の外交を展開してきた歴史もある。

外務省幹部の1人は現在の状況について、「トランプが嫌がりそうなことは一切、言わないしやらない。戦後歴代政権の中で、最も米国への従属に徹した政権だろう」と話している。

残念なことに、物言わないのは米国に対してだけではない。例えばカンボジアだ。かつて日本は初めてPKO(国連平和維持活動)のため自衛隊を派遣し選挙実施と復興を支援した。いまカンボジアはフン・セン首相が野党を解党に追い込み独裁体制を敷きつつある。しかし日本政府は何の反応もしていない。ミャンマーで起きている少数民族ロヒンギャの迫害問題に対しても日本は目立った動きを見せていない。

対北朝鮮以外は視野にない「外交小国」

まるで外交のあらゆるエネルギーを米国との良好な関係維持と北朝鮮問題への対応だけに注入しているかのような単線的外交になっているのだ。

安倍政権は外交面で今、「自由で開かれたインド太平洋戦略」を看板にしている。その中核は、自由や民主主義、市場経済、人権、法の支配など「普遍的価値」を共有する国々との連携である。また、国会演説などでは機会あるごとに「積極的平和主義」や「地球儀を俯瞰する外交」という言葉を多用している。

今回のトランプ大統領の決定のように「普遍的価値」に反する政策や出来事に対して政府として明確な評価を示すべきであろう。そうした行動が伴わなければ、「インド太平洋戦略」を信じる者はいなくなるだろう。

世界の政治や経済がグローバル化した時代に、自国の利益実現のためだけに奔走する狭い外交は、結果的に他国から信頼されず軽蔑さえ受けかねない。「普遍的価値」「地球儀を俯瞰する外交」を掲げるのであれば、それを踏まえた「徳のある外交」が世界から信頼を得るためには不可欠だ。
残念ながら安倍政権からはそのような発想を感じられない。このままでは日本は引き続き「外交小国」であり続けることになる。

薬師寺 克行 東洋大学教授

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やくしじ かつゆき / Katsuyuki Yakushiji

1979年東京大学卒、朝日新聞社に入社。政治部で首相官邸や外務省などを担当。論説委員、月刊『論座』編集長、政治部長などを務める。2011年より東洋大学社会学部教授。国際問題研究所客員研究員。専門は現代日本政治、日本外交。主な著書に『現代日本政治史』(有斐閣、2014年)、『激論! ナショナリズムと外交』(講談社、2014年)、『証言 民主党政権』(講談社、2012年)など。

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