日の丸ジェットエンジン繁盛記~大盛況でも深まる矛盾
787向けでは“分裂” 薄まる存在感
川崎重工のジェットエンジンの拠点、西神工場は06年から毎年1棟新設し、こちらの能力は3倍増だ。
4月、その西神工場でロールスとの「RSP20周年記念式典」が催された。ロールスの会長、駐日英国大使が式典に駆けつけたのは、回顧談にふけるためではない。進行中の新プロジェクトでの団結をたたえ、これからの健闘を誓い合うためだ。
新プロジェクトとは、787向けのエンジン「トレント1000」。従来、川重の参加比率は4~5%だったが、1000では8・5%に引き上げた。川重は中圧縮機をモジュールごと開発・生産する。「部品の下請けではなく、まとまったモジュールを手掛けたい。それには、8・5%のシェアが必要」(金森氏)。ロールスが身内以外にモジュールを丸ごと任せるのは、これが初めて。
だが、トレント1000には、V2500でロールスが最も信頼した戦友、IHIの姿がない。IHIは787向けのエンジンについては、トレント1000の正面の敵、GEの「GEnx」に走ったのである。もちろん、ロールスからも声がかかった。誘いを振り切ったのは、IHIとしての事業合理性からだ。
GEnxは777向けのGE90のコアエンジンをベースにしている。IHIはGE90では低圧タービンのローターとシャフトを担当した。GEnxなら、同じ分野をさらに強化できるという思いである。
V2500では一致団結した日本連合が分裂し、奇妙なことが起こった。20年前のV2500に比べ、プロジェクトごとの日本のシェアが低下したのだ。V2500の日本シェアは23%だったが、GEnxの日本(IHI+三菱重工)シェアは14%に、トレント1000は15・5%(川重+三菱重工)にダウン。プロジェクトごとの日本の存在感は低下、ないしは停滞しているのだ。
当事者には後退などという意識は毛頭ない。「(V2500では)すべてを最後にロールスがレビューした。今は、こんな感じでやってくれ、と任される。予備校生が普通の社会人になった」(満岡氏)。
従来、日本の守備範囲は低温・低圧分野が中心。コアエンジン(高温・高圧のタービン・圧縮機)はオフリミットだったが、IHIはリージョナル機向けCF34から高圧圧縮機の後段も手掛けている。一歩前進だが、前進の歩幅は限られている。